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アメリカ国防総省が進める「進化した人間創造計画」(1)
未来トレンド分析シリーズ
2013年4月11日 10:23

 世界の未来を創造する研究に資金を惜しまぬ組織としては、アメリカの国防総省国防先端技術開発局(DARPA)に勝る組織はないだろう。DARPAは常に20年から50年先の世界を見据え、未来社会にとって最も強力な武器となる新技術の開発に潤沢な資金を提供している。例えば1960年代の初頭、まだコンピュータ・サイエンスが学問分野としても誕生していないときに、将来のコンピュータ社会を具体化するビジョンの下、新たなコンピュータのネットワーク社会を描いていた。

<未来の戦闘員を生み出すための研究開発>
clock.jpg 当時、DARPAの前身組織であるコマンド・アンド・コントロール・リサーチ部門の責任者であったリック・リダー氏は全米の大学や研究機関、政府の主要部門を結ぶ「アルパネット」と名づけたコンピュータのネットワーム網を立ち上げる準備に着手。60年代の後半になると、DARPAの資金供用を受けた企業や大学の研究者たちがこぞって、アメリカが冷戦時代を勝ち抜くために、旧ソ連からの核攻撃を受けたのちにも反撃のできる通信指令システムを構築する目的で、コンピュータのネットワークを拡大することに必死に取り組み始めたものである。
 その結果が、今日我々がインターネットとして、ビジネスにおいても日常生活においても欠かせない情報ネットワークとして日々利用しているもの。元々は東西冷戦時代の軍事戦略に欠かせないとの観点から開発が進んだ技術であるが、今では世界のビジネスにとってなくてはならない通信情報インフラとなっている。
 そのDARPAが、今最も力を入れて研究開発資金を投入している分野が、「進化した人間を創造する」という分野である。これも元来の発想は、過酷な戦場で戦う軍人たちが肉体的にも心理的にも、また状況判断能力においても、敵を圧倒する優位性を確保できるようにしようとしたもので、未来の戦闘員を生み出すための研究開発に他ならない。

<夢としか思えないことを実現化する>
 国防省の下部組織に国防科学研究事務所(ディフェンス・サイエンスィズ・オフィス)という組織がある。このオフィスでも夢を現実のものにするために、常識を飛びぬけた大胆な発想で研究が進められている。将来の戦争や戦場を想定し、負傷した兵士が現場で失った人体や臓器を簡単に補充できるような人体再生技術の研究を進められているのである。
 DARPAの年間予算は、アメリカ科学財団の予算より30億ドル少ないという。また国立衛生研究所の予算と比べても、はるかに少ないとしか公にされていない。しかし、DARPAがバイオ革命という研究開発プログラムに投入している国家予算は全米各地の大学や研究機関に分散投資されているため、その全体像が把握されていないだけで、相当な金額に達するはずだ。アメリカが未来社会においても圧倒的な優位性を保つための研究であるため、資金を惜しまぬという体制が確立しているのである。

 DARPAは、「想像を絶するような、どう考えても夢としか思えないような技術の開発にこそ積極的に取り組む」というモットーを掲げている。不可能と皆が思うような技術開発こそ、アメリカ国防総省の科学頭脳を結集した組織が「自らの戦場」として捕らえているわけだ。
 インターネットの開発を成功させた勢いを駆って、DARPAでは無人偵察機「プレディター」を開発した。2002年、イエメンにおいてテロ集団アルカイダのリーダーたちがヘルファイヤー・ミサイルによって殺害されたが、彼らの動きを空中から無人偵察機でモニターし、ピンポイントで破壊する。そのような偵察衛星や精密誘導ミサイルの開発は、DARPAのお手のものである。
 正確な全体予算は公表されていないが、DARPAはその莫大な予算の90%近くを連邦政府機関以外の大学や民間企業に先行投資という形で資金供与している。これまでにもDARPAの資金提供によって、アメリカのIT業界は世界のスタンダードを獲得することができ、優位なビジネスを展開してきた。例えば、サン・マイクロシステムズ、シリコン・グラフィックス、そしてシスコ・システムズなど、いずれもDARPAの資金を基にして事業を成功させてきたといっても過言ではない。
 また、インターネットの創設に深く関わってきた背景もあり、UNIXやTCP/IPプロトコルの普及にもDARPAは大きな役割を果たしてきた。そもそもDARPAは、ソ連によるスプートニク打ち上げ成功による宇宙戦争における立ち遅れを挽回する目的で、アイゼンハワー大統領の肝いりで誕生した軍事技術研究機関。NASA(航空宇宙開発局)も、実はDARPAから枝分かれした「弟組織」のようなものである。

<人身保護か、それとも戦闘力強化か>
 このような背景を持つ軍事相撲の中枢組織ともいえるDARPAが、現在「新たな人類を創造する」という分野に本格的に取り組み始めたことは、まだ世界ではほとんど知られていない。その背景には、アフガニスタンやイラクの戦場で多数の米軍兵士が命を落とし、また身体障害者となって本国へ送り返されている悲惨な現実がある。DARPAとすれば、戦場で戦う兵士たちの苦痛や傷をいかにすばやく修復し、常に戦い続けることができる兵士を生みだすかが大きな課題となっているわけだ。

(つづく)
【浜田 和幸】

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<プロフィール>
浜田和幸氏浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。


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