第3章 広報戦略アドバイザーという隠れ蓑(中)
<審査能力に疑問>
福岡市顧問で会社社長の後山泰一氏が同市の業務委託の選定委員になったこと自体に疑問が投げかけられている。クリエイティブディレクターの釼英雄氏は、NET-IBの取材に対し、こう語った。
「後山氏は、一介の編集者に過ぎず、企画内容やデザインがアイランドシティのPRに役立つか審査できるか大いに疑問です。クリエイティブな制作の経験があるわけでもない。不動産情報誌の経験があるようですが、やっていたのは物件の紹介に過ぎない。デベロッパーの大事業のPR企画を精査できるはずがありません」。
アイランドシティPRのような業務内容については、後山氏は、いわば「門外漢」だと指摘するのだ。一方、釼氏は、数々の企業のプレゼンに参加し、コンペやプロポーザルの見識や経験を持つ。いわば審査ポイントを熟知している立場にいる。
単にメディア業界にいたから審査ができるわけではない。選定委員を人選する際には、審査する側の経験や実績があるか踏まえるのが当然だろう。
「行政発注の事業に『門外漢』が馴れ合いで関与して、疑惑を招いています。選定委員を受けること自体が業界の健全性を損なう。後山氏は会見を開いて、公に説明すべきです」(釼氏)。
疑惑が問題になっている9件の業務委託では、プロポーザル方式で業者を選んだ。プロポーザルというのは、受託希望者に提案書を出してもらい提案企画力のある業者を選ぶ方法で、価格が安いだけで選ぶのは相応しくない業務委託で広く採用されている。その選定委員は、学識経験者や所管の課長級職員らが務めることが一般的だが、明確な基準はない。
<具体的な見識・経験「必要ないので調査せず」>
選定委員の人選過程を福岡市に取材すると、市顧問の肩書が絶大な力を発揮したことがわかった。
「福岡本庁舎1階ロビー改装工事設計業務」のプロポーザルで、後山氏は選考委員長を務めている。後山氏が選考に関わった業務委託9件のうち、唯一、選ばれた業者が広告代理店とは関係がなく、「利害関係者」とまで言えないものだ。この工事は、福岡市役所1階のロビーを全面改装して情報発信拠点に変えるもので、昨年4月、情報発信コーナーやカフェ、大型電子看板、オープントップバスチケット売り場などが設置された。
所管の市財産管理課は取材に対し、「情報発信拠点としての効果を上げるようなコンテンツ内容の優れているところを選ぶプロポーザルであり、職務の役割に基づいて選定している」「市の広報戦略アドバイザーであり、職務内容は広報活動に関し助言・指導できる」と答えた。後山氏が過去にPR拠点づくりやその審査に関わるなどの具体的な見識・経験があるかどうかは、「必要がないので調査していないし、把握していない」という。
つまり、後山氏は、市の広報戦略アドバイザーであるだけで選ばれており、プレゼン審査に精通しているかどうかは具体的な吟味がなされていないということだ。
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