<経営会議(26)>
それを聞いた監査役の大沢は、
「今これを本当に強行したら、どの程度の混乱が起きてどの程度のマイナスなりダメージが出てくるかを私は読んでいないのですが、少なくともこう言うことを主張なさることは十分そのあたりも踏まえた上でないといけない。『やってしまってから、すみませんでした』では済まないのです。これをやれば維新銀行が受けるダメージは大変なものです。行員も知ったら本当に委縮してしまいますし、話がすぐにマスコミなどにも広がります。
私は極端なことを言っているかもしれませんが、いろいろお話を聞き感じていることは、これは完全に『一種のスキャンダルだ』と思います。皆さんが言っておられることはわからないでもないけれども、一般的には『あいつは気に食わない』というところで皆さんは固まっています。
何度も言うように本当に問題があるのであれば、銀行のためにこれは改善しないといけないと意見を言って、お互いに意見を戦わせていかなければいけないのです。
何度も言いますが、そういう努力をほとんどなされていないままで、取締役の決議によって罷免するわけですから、この影響は本当に大きいと思います。皆さん方も今日言いたいことを言ったわけだから、もう一度頭を冷やして維新銀行のためにどうすれば良いのかをもう一度考えてほしいです。
頭取がなんだかんだというよりも、今ここで揉めたことを表に出すダメージの方が大変大きいと思います。そのダメージを回避して、そして今後頭取にも改善すべきところは改善してもらう。また本部と営業店の意思疎通が悪いのであれば、皆さんがどんどん言って改善をしてもらう。
もし改善を要求したけれども、まだ代表取締役の行動なり、行状が改まらないというのであれば、その時に『あなたは駄目ですよ』と印籠を渡せば、これはまだ話が通用すると思います。
ところがそれもなしに、今まで取締役会でそういうことも言わず、自らの取締役の責務を果たさないまま、今月の7日になって頭取に退任を迫るような行為は許されません。私は17日に頭取からその話を聞いて腰を抜かしましたが、本人が嫌というのにすぐに辞めてくれと言って、無理やりに辞めさせるというのは、これは『クーデターであって、これは立派なスキャンダル』になります。
皆さんは今まで言いたいことを言ったわけなのですから、過去のわだかまりは水に流し、ここは頭を冷やして、銀行のために、OBのために、取引先のために考えなければいけないと思います。皆さんは銀行から高い報酬をもらっているのは、株主の負託を受けて維新銀行をより良くするための見返りです。それを個人的な感情や頭取の個性が強いことを理由にして、退任を求めるといことはやはり問題があると思います」
と述べた。
続けて大沢は、
「古谷取締役は多分、『そういうことではなく、より良い体制を新しくつくりたい』と言いたいのでしょうが、もう一度考え直してもらいたい」
と、今までの話し振りから古谷が次期頭取ではないかと思い、諭すように話しかけた。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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