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アメリカ国防総省が進める「進化した人間創造計画」(3)
未来トレンド分析シリーズ
2013年4月15日 16:25

<眠らない戦士の誕生>
sea_4.jpg DARPA(米国防総省国防先端技術開発局)の研究者たちはイルカやクジラが決して眠らないことにも深い関心を寄せている。彼らはいずれも人間と同じ哺乳類である。もし彼らが人間と同じように眠る必要があれば、海の中で溺れてしまうに違いない。彼らが溺れ死にしないのは、たとえ睡眠中であっても、脳の一部が常に覚醒しているからである。
 脳の一部は確かに睡眠状態に入っているとしても、他の部分は常に警戒態勢になっているから、クジラもイルカも睡眠中に溺れることがないのである。彼らは交互に、脳の眠っている部分と起きている部分をスイッチひとつで交換することができるようである。この哺乳類たちの脳の構造を、人間の脳に当てはめることが可能かどうか。その研究が現在、CAPプログラムと名づけられてDARPAで進められている。
 現在や近未来の戦争は、コンピュータを使った情報心理戦の側面が強くなると言われている。戦場の現場でも、24時間常に神経を覚醒させていなければ、敵との戦いに勝てない。そのため、人間の脳の一部だけを睡眠させ、他の部分は常に警戒態勢にあるような、いわば「睡眠を必要としない兵士をいかにして生み出すか」が、緊急の課題になっているという。
 要は睡眠中といえども、精神・肉体ともに戦える状況下に兵士をスタンバイさせることが可能かどうか。この技術をアメリカが世界に先駆けて開発することに成功すれば、戦争のあり方、特に最前線の兵士の戦い方が今日とは大きく様変わりしたものになるに違いない。1日24時間、週7日間、一睡もしなくとも戦い続けることのできる兵士が、まもなく誕生しようとしているのである。

<「睡眠不要剤」ですでに人体実験の領域へ>
 この「睡眠不要剤」の開発は、同じくシリコンバレーにあるセンタウル・ファーマシューティカルズと呼ばれる、心臓発作の治療薬を開発販売している会社で既に実験段階に入っている。ということは、ここ数年以内に実用化が十分可能となっているわけである。
 通常我々は、一晩の徹夜でも次の日には神経が相当参ってしまう。ましてや2日、3日と徹夜を続ければ、まともな判断力は失われてしまうだろう。しかし、戦争という極限状態で判断力を失わず戦い続けるという厳しい使命を帯びている兵士たちにとっては、このような睡眠不要剤は願ってもない味方となる。
 DARPAでは脳の視床下部に存在する神経細胞が生み出す「オレキシンA」と呼ばれる神経ペプチドに着目し、「兵士が最高レベルの体調を維持しながら作戦遂行が可能になる」ための点鼻薬の研究開発を進めている。こうしたオレキシンのスプレー化したものを吸引すれば、睡眠が不要となり、人間の活動時間が一挙に拡大するという。
 このような「睡眠不要剤」の実用に関しては、アメリカ陸軍のヘリコプター・パイロットの間で繰り返し実験が行われている。この錠剤を飲めば、40時間を超える長時間飛行であっても、肉体、精神面ともに正常な機能が保たれることが実証されたという。それどころか、集中力や判断力においては顕著な向上が見られるというから驚く。

<果してどこまで「安全」が保証されているのか>
 これまではアンフェタミンをベースにした睡眠抑制剤が使われてきたが、判断ミスやフレンドリー・ファイアー(味方の兵士を誤って撃ってしまう事故)を引き起こすなど、深刻な副作用が問題となっており、早期に新たな睡眠不要剤が求められていた。その意味では、この新たな発明は戦場での使用過程を経て、安全性など性能が保証されれば、近い将来、われわれの日常生活を一変させる可能性を秘めている。
 もちろん、このような睡眠不要剤が一般のマーケットに出回ることも、近い将来あり得るに違いない。いずれの人体機能強化薬も戦争やビジネスの現場で我々の能力をこれまで以上に飛躍的に高めることにはなる。だが将来的に何らかの副作用が発生しないのかどうか。大いに気になる点である。開発担当者は「そのための対策も講じられている」とは言うものの、どこまで安全かと問われれば、現在では確たる保証は得られていない。

(つづく)
【浜田 和幸】

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<プロフィール>
浜田和幸氏浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。


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