<経営会議(27)>
大沢の話を受けて古谷は、
「もう最初から私たちは谷野頭取に私怨があって動議を上げたと断定されているようですし、一方大沢監査役達の方は如何にも維新銀行のことを考えておられると言う話になっています。要するに我々は私怨に基づいてやっているというような話し方をされていますが、我々だって今のままではもう駄目だから、谷野頭取の任期満了を機に新しい体制でやりたいと言っているのです。現状の認識にかなりずれがあると思います」
と反論した。
大沢は、
「頭取は維新銀行のためにそれなりに努力しておられるのに退任を迫られている。谷野頭取は退任をしなくてはならないような悪いことをしたのでしようか」
と訊ねると、
古谷は、
「頭取が悪いことをしたとは一言も言っていません」
と、強い口調で返して来た。
大沢は、
「今の状況ではどうにもならないというのであれば、どうにもならない様にどんどん意見具申を言わなければいけない責任があったということを言っているのです。それをずっと続けた結果、頭取が改めずに大変な状況になったというのであれば、あなたが言うことはよくわかるということを言っているのです。そういう点でもう少し努力する必要があなた方にあったのではないですかということを言っているのです。それを抜き打ちに袈裟掛けしてばっさりというのは通用しないということを言っているのです」
と述べると、場内は一触即発の重苦しい雰囲気に包まれた。
それを察した木下取締役は、
「古谷取締役にお伺いしたいのですが、ALM委員会等でかなり梅原取締役と接触の場があったと思います。私は出席していませんから良くわかりませんが、そういう委員会は何のためにあったのですか。そこで議論を戦わせたのですか」
と、穏やかな語り口で尋ねた。
古谷は、
「ALM委員会はALMのための会議です。そのため私は東京支店の稟議が通らない時は早目に行って、梅原取締役と意見を戦わせました。梅原取締役だけではなく、営業店の案件を取り上げなくなった審査部についても問題があると思います」
と言った。
その言葉に木下は、
「私も支店長をやったことがあります。ご存知のように不良債権が一番多い県外店舗のK支店です。そんな店でしたから稟議は通りませんでした。貸金も半分になる、業績は悪い。しかし私は『人のせいではなく全て自己責任』と捉えて努力しました。しかし今まで皆さんたちのお話を聞いていると、自己責任原則と言いながらも言葉を替えて、『頭取』が悪いからだと言って責任転嫁しているだけではないですか」
と、切り返すように言った。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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