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「維新銀行 第三部 クーデター」~第2章 クーデター当日(30)
経済小説
2013年4月18日 11:12

<経営会議(29)>
 吉沢の説明を聞いた頭取の谷野は、
「いろいろ受け取り方はあると思います。そのなかで多少無理があるのは、『若返りを図らなければいけない』ということと、それから『上意下達、下意上達』というところで、マスコミはまずそこを突いてくるでしょう。今のことは参考にはしますが、それはちょっと言えないかもしれません。要するに意思の疎通が悪くて、内紛があったということに繋がりますから、それは言えません。有難うございました。
 どなたかがおっしゃったように、今回の件については一種のクーデターだとおっしゃったのですが、歴史が示すようにクーデターで生まれた政権は必ずクーデターで滅ぶという鉄則があります。
 何故かというと、やはり必ずしも動機が正当なものがなく、倒すということが目的であることから長続きしません。それとクーデターを仕掛けるには相当な計画があります。
 表現は悪いけれども謀議がある。今回何人の方がお集まりになってそういう謀議というか、計画があったのか知りませんが、今は目的が単に辞めさせるということであるから収斂していますが、いずれ必ずそれはどこかで破綻します。そうすることによってクーデターがクーデターを呼ぶというのが歴史です。

 それからもう一つは、これはもっと大切なことですが、そういうクーデターよって生まれた新しい政権トップは、そのクーデターに賛同した人たちの意を汲まないと政権は維持できません。必ず破綻します。と言うことは、その人たちは、言いかえればそのグループは企業を私物化してくるという恐れがあります。今はともかく私を排除することが主ですから、必ずしもそこまで心配りがあるとは思いませんが、そういうことはやはり注意しておく必要があるかと思います。

 そうでなければ新しく発足した政権トップは自分の身を守るために、今回の謀議に賛同した人たちを当面優遇するでしょうが、いずれ排除する道を選ぶのではないかと思います。その時になってクーデターに参加した人たちは利用されただけだと気付くことになり、自分のしたことを悔やむことになるのではないかと思います」
 と、自分の歴史観を披露した。

 それを聞いた専務の沢谷は、
「先ほどから大沢監査役のご意見をお聞きするなかで、マスコミなどに漏れるだろうと非常にご心配をしておられる。今ここにきて大沢監査役は、『谷野頭取交代による混乱を避けるために鉾先を収めてくれ』と言われますが、逆にスムースに行くのは『谷野頭取が自分の方から勇退する』と言うことであれば、すべて丸く収まります。
 頭取の哲学もあるでしょうが、この際維新銀行を守るために勇退していただきたいのです。我々は今まで谷野頭取に対して大変失礼な言い方をしましたが、是非ご再考をお願いしたいと思います」
 と述べ、深く頭を下げた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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