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大さんのシニア・リポート~第10回 高齢者が騙されるというけれど(3)
行政
2013年4月19日 13:16

 前号では拙著『騙されたがる人たち 善人で身勝手なあなたへ』(講談社)を紹介しつつ、悪徳・詐欺商法研究のプロが騙されるという、少々滑稽(失礼)な報告をさせていただいた。電話の向こう側にいる容疑者に、いきなり「異次元の世界」に連れ込まれてしまえば、"その道のプロ"であっても簡単に騙される。もっとも騙されたのが、今報告しているわたしなのだから"失礼"もなにもない。"滑稽"ついでに白状するが、思いもよらない"体験"をさせていただいた。今回は脱線気味なるを承知で、ここからスタートさせていただきたい。

ds_1.jpg 先月29日、フジテレビ「ノンストップ」という番組の女性ディレクターから電話をいただいた。「拙著を読み、ぜひ生出演していただきたい」という。わたしは直前の番組「とくダネ!」には2度ほど出演しているので、「とくダネ!」の番組内容を把握しているつもりだ。でも、直後の「ノンストップ」は見たこともない。拙著の紹介を兼ねることができるのならとOKした。何しろ出演は5日後なのである。
 女性のディレクターと会ったのは31日。そこで番組内容の説明を受けた。わたしの出るコーナーは「被害急増'手渡し詐欺'」。ゲスト出演はわたしのほかに、心理カウンセラーの晴香葉子さん。MCはバナナマンの設楽さん、ほかにえなりかずきさん、LiLiCoさん、それに吉本喜劇の小藪さん(申し訳ないが知らない)など。バラエティ番組ではないが、お笑い芸人が社会問題にコミットする番組らしい。でも、わたしの「立ち位置」(どういう姿勢で話をすればいいのか)が読めないのである。

 4月2日午前8時過ぎ。2階にある出演者控室。わたしと晴香さんの前にディレクターが登場して、台本を手渡される。A4版、30枚にも渡る"大著"だ。わたしのコーナーも実に詳細なる記述で埋め尽くされている。話す文言も記されている。でも、わたしが話したい内容とは違う。第一、わたしのプロフィールが、「悪徳・詐欺商法を研究し続けて20年」という記述に違和感を覚えた。
 悪徳・詐欺商法を追いかけているのは、高齢者問題のなかでは避けて通れない大きな問題だからだ。もっともディレクターからすれば、「20年間も研究している専門家が、振り込め詐欺に遭う」という構図のほうが説得力もあり、面白いことは理解できる。
 ディレクターをMCに見立て、学芸会の本読みよろしく「Q&A」を繰り返す。「想定問答」といったところ。どうやらMCたちから予想を越す質問が飛び出すことが多いらしい。これなら想定問答を繰り返しても無意味だと思うのだが、ディレクターは実に熱心に想定問答を繰り返す。

ds_2.jpg 本番直前、総合司会の佐野瑞樹アナと面会。「騙された大山です」と自己紹介すると、「あっ、好き勝手にしていいです」とうれしい言葉をいただいた。本番は予想通りの「想定外質問」の集中砲火。抑え処を外さず、いいたい放題のわたし。その都度「ドッカン、ドッカン」とスタッフの大爆笑。その声を聞くたびに、動揺するわたし。
バラエティは難しい。「場のノリ」というものがある。初体験では、ノリの流れに身を任せるというのがこれまた難しい。もともと「場を和ませる」ことに神経を注ぐ癖があり、そのためにその時の場の空気を読むことには長けていると思う。できれば笑わせたいと思う。ただ、行き過ぎは場の空気を壊す。そこが難しい。そんなことを本番中に考えていたのである。で、出した結論が、積極的に「プロのくせして、騙された哀れなモノカキ」という役者を演じた。話の流れで、「アクター」という言葉を発したことは覚えている。
 本番を終えた直後、佐野アナに「面白かった。よかったですよ」といわれ、単純に喜ぶ自分に驚く。一方で不安もあった。帰宅後、留守電にいくつかのメッセージが入っていた。「面白かった。大山がバラエティに出るとは思わなかった」(大学時代の友人)、「先生がお出になっていたので驚きました。あのような番組にお出になってよろしいのでしょうか」(わたしの古い読者)など、反応は様々だ。拙著の宣伝と、「プロでも騙されるのだから、よほど気をつけないとあなたも簡単に騙される」ということを伝えられればいい。でも、カミサンには「留守録した番組を見てはならない」と伝えた。自分の醜態を見られたくはないから。

(つづく)
【大山 眞人】

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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