大和ハウス工業の樋口武男会長(75)は、当代きっての「買収王」である。4月16日、2件の買収発表があった。1つは、ジャスダック上場のマンション分譲会社、コスモスイニシア。もう1つは福岡証券取引所上場のパーキング(賃貸駐車場)を展開するダイヨシトラスト。昨年には、準大手ゼネコン、フジタを買収したばかり。創業事業である戸建て住宅を軸に、マンション、土木建設へと多角化を進めてきた勢いは止まらない。大組織病に勝つには、「会社を熱くしなければならない」という経営哲学をもつ樋口会長の挑戦が続く。
<首都圏マンションの強化で買収>
大和ハウス工業(大野直竹社長)によるコスモスイニシア(東京・港区、高木嘉幸社長)の買収は、マンション業界地図を塗り替える。大和ハウスはコスモス社が実施する第三者割当増資を6月27日に1株につき490円、約95億円で引き受ける。発行済み株式数の64.11%を取得し、子会社化する。ジャスダック市場への上場は維持する。
コスモス社の旧社名はリクルートコスモス。リクルート事件の舞台となったマンション分譲会社である。リクルートの創業者、故・江副浩正氏がリクルートコスモスの上場の際に、政治家、官僚、通信分野の大物たちに、コスモス社の未公開株を大量に譲渡した事件だ。05年にMBO(経営陣による買収)でリクルートグループから離れた。
だが、リーマン・ショック後の金融市場の混乱で業績が悪化。09年3月期に債務超過に転落。産業活力の再生を目的とした特別措置法である事業再生ADR手続きのもとで再建を進めてきた。13年3月に1,008億円の事業再生ADR債務を完済し、再生期間を終えた。
これにともない、三菱東京UFJ銀行、みずほコーポレート銀行、三井住友銀行などが債務の株式化で取得した優先株を買い取り、消却に充当する。そして、新たに大和ハウスに第三者割当増資を行なう。大和ハウスは金融機関が保有する優先株を肩代りする形で出資する。
コスモスイニシアの13年3月期の連結売上高は前期比10.2%増の884億円、当期純利益は同87.3%増の25億円の見込み。
コスモス社を子会社化する狙いについて、大和ハウスの大野直竹社長は会見の場で、こう語っている。「大和ハウスのマンションの3分1が関東圏、3分の2が関東圏外。一方、コスモスイニシアは12年で65%、13年は87%が首都圏と非常に強い。当社も首都圏強化がマンション事業の一番の柱と考えており、これを全体の50%の比率まで持っていきたい。その意味で、シナジーがあるのではないか」
大阪が母体の大和ハウスは、最大のマンション市場である東京に弱い。首都圏が中心のコスモス社を取り込むことで、永年の課題だった首都圏攻勢に弾みをつけたい意向だ。コスモス社と単純合算したマンション供給戸数(12年)は全国で4,132戸となり、4位の住友不動産(4,209戸)に迫る。
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