安倍首相は、去る4月19日、6月にとりまとめる予定の成長戦略の一部について、日本記者クラブでスピーチを行なったが、そのなかで、健康長寿社会に向けた戦略についても言及した。健康長寿社会に向け、今政府内でどのような検討がなされているか、見てみたい。
<平均寿命と健康寿命との差は6~8歳>
首相は、19日のスピーチのなかで、健康寿命は、平均寿命より6~8歳低いと言われていることを紹介し、病気の予防などに力を入れることで、健康な体の維持を重視する社会を目指す考えを示した。そしてその鍵の一つが再生医療・創薬だとして、再生医療の実用化・産業化を進めるため、大胆に規制・制度を見直していくとした。
具体的な動きのひとつとして、現在医師しかできない患者の細胞培養を、民間に外部委託することで、より安全で安価な再生医療を行なうことができるようにする法案を、現在開かれている第183回通常国会に提出することが予定されている。
<産業競争力会議での多少過激な議論>
産業競争力会議では、民間議員から、「健康長寿社会の実現に向けて、国民の健康寿命の延伸が必要不可欠であり、病気にならないことがより重要。予防医療こそがGDP成長をもたらす」との主張がなされている。そして、そのためには、医療法人が医業の他に行なうことができる附帯業務を拡充すること、医療法第41条の医療法人の出資規制を緩和すること、NPOなどとの協働、地方への権限移譲などが必要だとされている。
そして、そのように予防に取り組むことで、病気や重症化した場合に比べ負担を減らすとしている。予防医療へのインセンティブと社会保障コストの削減のために、例えば、がんなら従前どおりの自己負担3割、風邪は7割負担など疾病の種類によって自己負担割合を変えること、3年ごとに1割アップなど自己負担増を段階的に行なうこと、一月当たりの窓口負担の上限額の比例増部分(現在1%)を引き上げること、現在70歳以上75歳未満の1割負担凍結を速やかに解除すること、75歳以上の1割負担についても2割にすることなども民間議員は提案している。
このほか、介護についても、軽度のデイサービスは全額負担、デイケアは3割負担にすることを提案しており、いざ実現しようとする際には、社会的な大問題となる可能性がある。
厚生労働省は、これら提案に対する対応や考え方を示した「健康長寿社会の実現と成長による富の創出」という資料を産業競争力会議に提出している。特に、一番うしろの「その他の民間議員提案に対する厚生労働省の対応・考え方」を見ると、今後展開されるであろう、民間議員対厚生労働省の激しい攻防戦が目に浮かぶようである。
産業競争力会議の民間議員の動きには、注目していく必要があろう。
▼関連リンク
・安倍首相の日本記者クラブにおけるスピーチ(2013年4月19日)
・産業競争力会議民間議員の提案(健康長寿社会の実現(要旨))(平成25年3月29日)
・健康長寿社会の実現と成長による富の創出(産業競争力会議への厚生労働大臣提出資料)(平成25年3月29日)-民間議員の提案に対する厚生労働省の対応・考え方を示したもの
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