(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎 氏
福岡市住宅供給公社 理事長 瀧口 研司 氏
(株)シェルフアソシエイツ 代表取締役 坂口 敬司 氏
福岡は歴史的にアジアと日本の玄関を担ってきた。平安時代には鴻臚館が設置され、外交の要衝として、大いににぎわいを見せてきた。ところが近年、その役割は薄まってきている。未来に向けて福岡の存在感をいかに示していくべきなのか。福岡市住宅供給公社理事長・瀧口研司氏、(株)環境デザイン機構代表取締役・佐藤俊郎氏、(株)シェルフアソシエイツ代表取締役・坂口敬司氏に、福岡の発展の可能性について、うかがった。
<伝統・文化を資産とせよ>
――海外からせっかく福岡に訪れてくれても、福岡での滞在時間が短く、ビジネスにまで発展しにくい状況が続いています。クルーズ船が数千人単位で人を運んで来てくれても、活かしきれていません。観光による収入の増加や、ビジネス提携への発展を促進するためには、あらゆる手段を講じる必要があると思います。
瀧口 行政は、常に本気の姿勢を見せ続けなくてはいけないと思います。民間はリスクをともなう投資をするわけですから、行政の姿勢がゆらぐようなことがあると、一気に意欲をなくしてしまいます。そういうところは、非常に敏感に感じ取るものです。やる気を見せ続けてこそ、ついてくる部分もあろうかと思います。
――行政を信じるから、民間が活発になるということですね。実は先日、金沢に行ってきたのですが、金沢は街中に活気が満ちていました。商店の店先には、さまざまな工夫を凝らして客を導き入れようとしていました。まるで一軒一軒が小さなテーマパークのように、楽しそうな雰囲気を出していました。金沢市は地政学的には観光しにくい土地であるにもかかわらず、活気づいていて魅力的に見えます。「また来たくなる街」にしなくては、観光収入を増すことは難しいと思います。
坂口 金沢は伝統工芸が盛んで、その魅力を通じて観光客を増やしているように思います。加賀友禅、漆器、金箔、銀箔など、伝統的な技術が盛んで、そのファンが金沢を訪れてお金を喜んで使っているような気がします。そういう伝統を活かして観光につなげている点はすばらしいですね。
佐藤 金沢市では伝統工芸教育に、かなりの資金を投じて後継者の育成、文化の継承、発展に尽くしています。
たとえば、資金的にバックアップをしながら技術を学ばせて、なおかつ拘束をしない。つまり、卒業後、何年間はその仕事に就かなければならないなどの縛りがないのです。受講生にとっては、気楽に入ることができますし、自分に合っていると思えばその道に進むことも可能になります。そういった仕組みを、懐深く実行していることが、伝統工芸の裾野を広げることにつながっているのだと思います。それが金沢市の魅力につながり、観光客を導いているのではないでしょうか。
そういう点は学ぶべきところが多いと思います。
瀧口 そこでしか体験できないもの、そこにしかないものには人は集まります。
そういう視点で言えば、福岡は空海、栄西が中国から戻ってきた玄関口としての史跡などがたくさんあります。とくに日本で唯一遺構が見つかっている平安時代の外交施設である「鴻臚館」の存在も大きいと思います。平安の時代からアジアとともに生きてきた、というシンボリックな存在にもなり得ます。福岡城を復元しようという動きもあるようですし、観光資源としての期待が高まります。
ただ、お城は全国に多数ありますし、九州にも熊本城のような立派なものがあります。多数あるうちの1つではなく、真のオンリーワンが鴻臚館です。ですから福岡城の復元とともに、ぜひとも鴻臚館を復元して、平安の息吹を感じられる場所にしてほしいと思います。ここでしか味わえないものがあるのですから、学術研究だけではなく、観光資源として育ててほしいですね。
――鴻臚館の復元は、非常に興味のあるところです。ぜひとも実現してほしいと思います。
坂口 伝統、文化は、学者さんたちだけのものにしておくのはもったいないですね。まずは行政がその価値を認識して、どう使えばより地元のためになるのかを考えるべきかもしれません。京都などは文化への理解が深いように感じます。
文化的な価値が経済効果につながるためには、地元の理解は不可欠でしょう。文化を愛でる方が、文化を育ててくれて、そこに人が集まってくるという流れができれば、地場の振興につながると思います。
佐藤 文化への理解は必要になるでしょうね。それがなくては、地域に文化は根付きません。京都など、伝統が息づいている街には、必ず私費で応援するパトロンがいます。金沢の鍍金の技術とビジネスとして付き合うと同時に、私的に鍍金の製品を愛でる方も多くいらっしゃいます。そういう方のバックアップがあるからこそ、文化が育っていくということもあると思います。
坂口 福岡にも文化を愛する方は多くいらっしゃると思います。ただ、層は必ずしも厚いとは言えないかもしれません。遊びの分野と言われればそれまでかもしれませんが、そういった余分な部分こそが文化の本質かも知れませんね。
瀧口 福岡でしか体験できない強みを育てて、行政、民間ともに手を携えてどん欲に発掘していくことが大切なのだと思います。
――福岡を発展性のある街にするためには、何でも活用していかなくてはいけないでしょう。お金を儲けるために街を活用するという意識を持って、ビジネスを広げることも必要と言えますね。
(つづく)
【文・構成:柳 茂嘉】
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