<富士山は周期的に噴火している>
首都圏の災害は地震だけではない。最近、よく話題になる富士山の噴火も、首都圏に甚大な被害をおよぼすことになる。歴史を振り返ると、最近2,000年の間に、富士山は少なくとも75回噴火している。平均すると、30年に1回以上の頻度だ。
直近の噴火は、1707年に発生した宝永噴火がある。その49日前、南海トラフ全域を震源域とした最大級の巨大地震(宝永地震)が発生している。今でいう東海地震・東南海地震・南海地震(南海トラフ巨大地震)が同時に発生し、富士山の噴火を誘発した、というのが専門家の見解である。
以来300年間、1度も噴火していないということは、10回分のマグマが地下に蓄積されている可能性が高いと言える。この宝永噴火では、富士山の火口から100キロ離れている江戸にも、偏西風に乗って、数センチの火山灰が降り積もった。
<富士山噴火による被害想定>
では今日、富士山に、前回と同じレベルの噴火が起きた場合の被害について考えてみよう。まず、交通インフラが間違いなく麻痺する。東名高速道路・東海道新幹線はもとより、航空機も全面ストップとなる。
パソコンなど、精密機械への影響。河川や下水道への火山灰流入による「塞き止め」。農地や山林など「都市のみどり」に対する影響。降り積もった膨大な火山灰の処理。東京に灰が5センチ積もっただけで、都内だけで東京ドーム72杯分になると想定されている。これを誰が集めて、どこに捨てるのか。東京では、冬に雪が5センチ積もっただけで、都市機能は麻痺する。ましてや灰は消えてなくならない。灰は雨で水分を含むと重量が増し、泥流も発生する。富士山噴火による火山灰の影響は、計り知れないものがあるだろう。
被害の甚大さでいえば、首都直下地震(約1万1,000人の死者、約21万人の負傷者、約85万棟が全壊および焼失家屋、約650万人の帰宅困難者、約112兆円の経済被害)と比べても、富士山の噴火は、影響する地域が極めて広く、しかも航空機も含めた交通インフラの全面麻痺によって、救援の手(羽田空港だけでなく、自衛隊基地や米軍横田基地なども使用できなくなる)が届きにくいことが想定される。
他方、発生可能性は、「今日ただちに噴火の兆候がある」というわけではないが、いつ起きてもおかしくないとされる東海地震に誘発される可能性は十分にある。こう考えると、富士山噴火への備えは、決して絵空事ではない。
<国家機能の喪失に備えた、行動マニュアルの作成を>
2000年に富士山直下で、マグマの活動を示す「低周波地震」が相次いで観測されたことがきっかけで、国が中心となって「富士山ハザードマップ」が作成された。しかしこれは被害予測であって、どう対応するかという行動マニュアルではない。「これほど甚大な影響のある富士山噴火が、これまで社会的な議論の対象となって来なかったのは、経済的・社会的影響が大きすぎるからだろう」と、京都大学防災研究所の石原和弘教授(日本火山学会会長)は言う。
富士山の噴火がひとたび起きれば、首都圏だけの問題ではすまされない。首都圏に暮らす人々だけでなく、すべての日本人が共有すべき問題なのである。なぜなら首都基機能の喪失は、国家にとっての最大のダメージとなるからだ。全世界にあるおよそ800の活火山のうち108が我が国にあり、そのなかの21が東京都にあるということを忘れてはならない。
※本稿は早坂義弘東京都議会議員の原稿を引用して寄稿しています。
<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。今年3月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。5月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版、現在第4版)が発売された。 公式HPはコチラ。
※記事へのご意見はこちら