<有識者懇が報告書を提出>
今年1月に日本人10人の犠牲者を出した北アフリカ・アルジェリア南東部イナメナスでの日本人人質事件を受け、在外邦人の安全対策を検討していた政府の有識者懇談会が4月26日に報告書をまとめた。
報告書の骨子は以下の通り。
(1)官民連携メカニズムを育成する。
(2)企業と政府の定期情報交換。
(3)官民合同海外安全セミナー・演習を実施する。
(4)政府の危機管理研修センター設置も一案。
(5)邦人退避のための手段を拡充する。
(6)国際テロの告別年次報告書作成を検討する。
(7)既存情報機関間の人事交流を行なう。
菅義偉官房長官は、報告書の提出を受けて、「在留邦人、企業の安全確保にオールジャパンで取り組むため、提言は責任を持って施策に反映したい」と、述べている。
<日本は「情報過疎」国家>
海外には邦人約120万人が滞在している。今後も海外邦人の数は間違いなく増えていくだろう。他国の地にあっても日本人の生命・財産を守ることは、政府の一義的使命であることに変わりないない。
だからこそ政府は邦人の安全のために、世界に耳目を広げておく必要があるのだ。ところが、アルジェリアの人質事件では、まったくの「情報過疎」状態が続いた。
事件発生後、アルジェリア政府が情報を遮断したせいもあるが、邦人安否の情報は日本政府には入ってこなかった。戦後、情報に弱いと指摘されながら、何ら手を打ってこなかったツケが、日本を苦しめる結果となったのだ。
<防衛駐在官を活用せよ>
現在、防衛駐在官は36カ国の大使館と国連など2機関に49人が配置されている。事件が起きたアルジェリアを含むアフリカ諸国には、エジプトとスーダンの2カ国だけにしか配置されていない。中南米諸国にいたっては1人も配置されていない。
おまけに防衛省から外務省に外務事務官として出向しているため、防衛駐在官には防衛大臣の指揮命令がおよばないだけでなく、海外で集めた情報を防衛省に直接報告することも禁止されている。これではどんなに防衛駐在官を増員しても、集めた軍事情報を正しく分析することは難しい。外交情報と軍事情報は同じように見えても、実は違うからだ。日本がいかに軍事情報を軽視してきたかとい証拠でもあるだろう。
アルジェリアの人質事件も軍事情報を的確につかむ体制(地元軍人との交流による軍事情報の入手)ができていれば、防げたかもしれない。外務省は防衛省が防衛庁の時代のころから、つねに防衛庁を外務省よりも下に見る傾向が強かった。その流れはいまも続いている。上下関係を見直すうえでも、自衛官の身分のままで防衛駐在官として配置できるような制度に改めるべきである。同時に駐在官から駐在武官に名称を変更し、活躍の場を与えるべきだ。
<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。今年3月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。5月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版、現在第4版)が発売された。 公式HPはコチラ。
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