1日、ニューヨークを拠点として中国古典芸術を世界に広める活動をしている神韻芸術団が福岡公演を終え、日本ツアーを終了した。九州では唯一の開催地ということもあり、昼と夜の計2回行なわれた公演には九州のみならず、中国地方からも観客が集い、世界を席巻する一流の舞台に賞賛の拍手を送った。
神韻芸術団は、日々研鑽を積んだダンサーたちと中国の古典楽器を含めたオーケストラ、ソプラノ、バリトン、テノールの歌手たち、ピアニストなどで構成される。披露される各演目は、音楽と踊り、そしてバックスクリーンに映し出された3Dデジタルを駆使した背景が一体となっており、演目ごとに切り替わる独特の雰囲気は、観る者を魅了し、決して飽きさせない。今回は全部で21演目。そのすべてが今年のツアーのために新しく作られたものだ。音楽と振り付け、そして衣装も演目に合わせて作り替えられる。それも中国5,000年の文化と芸術の奥深さがあってこそ、と言えるだろう。
2006年の結成以来、西欧諸国では連日満員という高い評価を得ている神韻芸術団だが、残念ながら、まだ日本では知名度が低い。一方、同じアジアツアーに含まれる韓国や台湾の公演数は、日本の倍以上。とくに台湾では計47回の公演が行なわれ、大盛況であったという。
昨今の日中関係の悪化が日本における集客に影響していることも否めないだろう。中国本土での反日デモや尖閣諸島沖における領海侵犯で、「神韻芸術団=現在の中国」という見方から、今回の公演を嫌う声も少なくはなかった。だが、神韻芸術団は、中国共産党政府の圧力を受ける側にある。福岡県の地方自治体に対して、中国共産党政府が文書で、神韻芸術団への名義後援を取り下げを依頼したという話もあるくらいだ。
海外で暮らす中国人たちの「祖国・中国の文化・芸術の素晴らしさを世界に伝えたい」という想いから作られた神韻芸術団。演目には、宗教(仏教)・迷信、歴史文学のほか、チベットやモンゴルなどの民族舞踊をテーマとしたものもある。本来、多民族国家であるはずの中国の文化・芸術は、歴史的に多様性を受け入れてきたものであることを舞台で伝えようとしているのだ。
神韻芸術団を否定する中国共産党政府は、「その背景は『オウム真理教』だ」などと主張する。しかし、同芸術団の舞台を観た人で、その言を信じる者はおそらく1人もいないだろう。インターネット上での検閲など、統治にとって不都合な情報が統制されている事実を踏まえれば、神韻芸術団への圧力もまた、その一環としか思えないのである。世界中の人々に感動を与え続けている舞台を観る限りにおいて、彼らの世界ツアーは、古典芸術を通じた〝祖国解放の戦い〟のようにすら感じる。
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