読めば読むほど、とんでもない国である。金正恩を中心に幹部は贅沢三昧であるが「トイレットペーパーは幹部用にしか生産していない。ほとんどの人たちは使い切ったノートをちぎり揉んで柔らかくした後に使用、農村部ではサイズの大きな葉っぱを使う」。昨日今日の話だ。「地方では家族が順番に同じ服を着て外出、作業着はぼろぼろで下着はつけていない」、「収入の9割以上が食費で、停電しても電気代は月定額料金を支払う」、「人口の5%(120万人)がホームレスである」
著者の呉小元(匿名)氏は日本生まれの元朝鮮労働党幹部、10代で北朝鮮に帰国。平壌の大学を卒業後、労働党傘下の貿易会社で働いた後、韓国で工作活動に従事、90年代に韓国に亡命している。本書は、東京新聞に連載された「平壌ウォッチ」が基となっている。
人間の持つ恐怖心や嫉妬、優越感、出世欲などを巧妙に利用した「住民による監視システム」が構築されている。「模範人民」は、見ざる、聞かざる、言わざるに"考えざる"を加えた四猿である。医療制度が破綻しているので、朝鮮労働党は「北朝鮮の医療の基本は"予防医学"である」と言っている。2011年5月に、朝鮮中央テレビは「北朝鮮が世界で幸福指数第二位になった」と伝えた。本書にはこの種の内容が上記の十倍以上書かれてある。
<国民を騙すテクニックが洗練されているか、いないか!>
ここで、読者に考えて欲しいのは、このとんでもない国で起こっていることと、「美しい日本」で起こっていることとは、現象的に違って見えても、為政者の本質は全く同じという事である。違いは「国民を騙すテクニックが洗練されているか、いないか」だけなのである。騙すテクニックが洗練されていると、"霧"がかかり本質が見えづらくなる。
そして、まるでこの"霧"が晴れたかのように、その為政者の本質が白日の下に晒された出来事が"原発報道"である。国民には「半径20km圏外の地域は安全」という指示を出した政府幹部、報道したマスコミ幹部、そしてなんと東電幹部までが自分の家族をいち早く関西、海外に脱出させたのは衆知の事実だ。本人が脱出したあっぱれな政治家、被災地の地元には全くよりつかなかった政治家も有名な話だ。マスコミも、既存メディアの記者は誰一人、40km圏内にさえ入っていない。その結果、誤報道で、福島県浪江町の人々は、放射線量の最も高いところに避難させられている。
東電は新聞、TVの記者を接待づけにして"人命"に関する本当の記事を書かせない。その記者は、政府に情報を売り、小遣い稼ぎをし、政府が彼らに支払う財源は、領収書不要の国民の税金"官房機密費"である。これで、北朝鮮と本質的にどこが違うのか。
この為政者の本質は、政権交代前の自民党から続いており、政治、経済、教育、外交等様々な分野で今まさに進行中である。読者も「あなたの周りの北朝鮮」を挙げるとすれば片手では足りない筈だ。
スピード違反をした新聞社幹部の息子は無罪、捕まえた巡査は左遷。大物政治家の息子の公職選挙法違反はいつのまにか無罪放免。大物女優の娘に纏わる強姦事件も強姦された方が退学で収束等卑近な例を挙げればきりが無い。
この本に書かれてあることを、単に対岸の火事として片づけることなく、我々国民が「心の眼」を曇らせない戒めとしたいものである。
<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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