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国会動物園で、珍種「TV政治家」が増殖中!~「テレビが政治をダメにした」鈴木寛著(双葉新書)
書評・レビュー
2013年5月 9日 13:42

 今国会で「TV政治家」が増殖中とのことである。その生態は頗る変わっている。政治家なのに、一番の関心事(好物)が"政治"でなく"TV"なのである。今までにない珍種と言える。

 その一例を紹介する。消費増税反対、賛成と民主党内で議論を繰り返し、取りまとめの段階にTVカメラが入ることになった時のことだ。原則的に、この種の会合をマスコミに公開するのは最初の頭撮り(約10分程度)の時だけだ。そして、通常はTVカメラが回っている時は、執行部の挨拶、政調会長の発言が行なわれる。

 ところが、TVカメラが回っているのを確認すると、いつ来たのか(議論には参加していないのだが、"TV"に関する嗅覚だけは優れ、どこからともなくやって来る)「TV政治家」は突如として手を挙げ、立ち上がる。もちろん司会者は制止するのだが、そんなことは関係なく、政調会長の挨拶も遮り、TVに向かって演説を展開する。そして、TV撮影の時間が終了し、議事進行となると、「TV政治家」はTVカメラとともに会場からいなくなる。今度は会場の外でぶら下がり取材(会見場以外の非公式取材)を受けるのである。

 読者がTVでよく見かける政治家の話である。もともと「TV政治家」は議論にはほとんど参加していない。勉強不足で参加できないことが大きな理由であるが、政策議論に「TV政治家」を参加させると、途中経過の段階で重要な情報が漏れるので、敬遠されているのだ。ところが、不思議なことに、翌日のTVはこの「TV政治家」のいい加減な発言で埋め尽くされ、政治"ど"素人のキャスターが進行、同じく政治"ど"素人の文化人、芸能人がどうでもいいようなコメントを述べる。健康にいい納豆、しょうが紅茶の話題、巨人の監督に誰がなるのかと同じレベルで日本の総理に誰がなるのかが論じられる。

 著者の鈴木寛氏は元通産官僚の参議院議員。民主党政権下で文部科学副大臣に就任、民主党きっての政策通、論客である。中央大学客員教授、大阪大学招聘教授も務め、本書は、政治家と情報社会学者という2つの視点で書かれている。筆者も含めて、読者の多くが何となく感じていたことと思うが、改めて現場からの事実を突きつけられると愕然とする。

 現在、「ニュース番組」はワイドショー化し、政治報道も本質を伝えることなく、「面白くて画になる」内容だけが報じられている。そして、TVに媚びを売り、たくさん出演すれば名前が売れるので選挙が安泰と考える者が増えてきている。その結果、本来の目的「国政を担う使命感や責任」を見失っていることに、著者は警鐘を鳴らしているのである。

 最近はテレビプロダクションに所属している政治家も出てきている。自民党の片山さつき氏はデーブ・スペクター氏のスペクター・コミュニケーションズに所属、神奈川県元知事の松沢成文氏は吉本興業とマネジメント契約を結び、橋本徹大阪市長は芸人の爆笑問題が所属するタイタンと業務提携契約を結んでいる。このことが、それぞれ何を意味するのかは、感の鋭い読者であればお分かりであろう。

 このように、持ちつ持たれつの関係をTV局のディレクターと構築した政治家は、与野党関係なく5人から10人程度はいる。そこに、ディレクターや放送作家がTV的に映したい映像を撮る企画を持ち込む。つまり、"おんぶに抱っこ"の出来レースとなっているのである。

 この他に本書では、情報社会学者の立場から、イギリスやアメリカで行われているメディアリテラシー教育が日本では全く行われていないことや世界でも類を見ない、新聞社がTV局を支配しているメディア後進国の現状等を鋭く指摘している。さらに、読売新聞の"偏向"のあからさまな実態や田原総一朗氏の功罪などにも結構なページ数が割かれている。

【三好 老師】

<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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