福岡市水道局は、臨海部の工業団地に立地する29社に対し、1966年から工業用水道を供給している。供給量は最大1万5,000m3/日。お隣の北九州市と比べると10分の1のささやかな規模ではあるが、産業活動を下支えするライフラインとして供給を重ねてきた。言うまでもなく、工業用水道は企業会計で、需要者との契約水量で事業費用を賄う。1976年度に契約水量はピークを迎えたが、その後水量が減少し、2000年度には赤字に転落。累積赤字も懸念される状況に陥った。
事態を重く見た同局は2003年4月、コスト削減のため、工業用水道では国内初となる浄水場の運転・維持管理業務の包括的な委託に踏み切った。委託者の選定には、提案審査委員会を設け、いわゆるプロポーザルによる総合評価方式を採用。水道機工(株)と委託契約を結んだ。期間は5年間で、金額は2億8,350万円。この委託によって、浄水場職員は12名から2名に減少。約5,400万円の経費削減となり、委託初年度から黒字転換を果たした。
工業用水道は、50項目の水質基準がある一般の水道に比べて水質基準が緩やかで、濁度(水の濁り)とpH値(酸性・アルカリ性の数値)のみとなっているが、同局は、濁度7度以下、pH値5.8~7.5を要求。とくに濁度については、同市給水条例に定める15度を超える厳しい基準を求めた。浄水場原水は、御笠川の表流水で降雨などによる濁度変化が激しく、需要者の注文も濁度管理に集中していたための要求だった。pH値についても、夏場に原水pH値が上昇(アルカリ性が強くなる)する傾向が見られた。
同社は、濁度対策として水中の汚濁物質を分離する凝集剤注入を自動制御とするほか、pH対策として硫酸注入設備の導入などを実施。受託後の濁度は、各年度平均で0.9~2.2で推移しており、要求水準を満足させる運転管理を続けている。同社の仕事について、「委託当初はトラブルもあったが、年々その回数は減っており、近年は安定した運転を行なっている」(同局担当者)としている。
今年4月、最初の委託から10年を迎え、両者は3期目となる5年間の契約を結んだ。順当と言える結果だが、同局に懸念がないわけではない。3回の総合評価発注に対し、応札する業者が減っているためだ。総合評価方式において長年受託してきた「特定の応札者」が有利になることについて、制度上の問題として内閣府などでも議論が行なわれているところではある。「次の発注では、他業者が応札しやすい仕組みにする必要がある」(同)。
地方公営企業におけるコストダウンとサービス向上の両立を狙った総合評価による包括民間委託。新たなステップとして、同局はどのような仕組みを選択するのだろうか。それがどのようなものであれ、双方にとってメリットのある仕組みが求められる。
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