今でこそ新疆ウイグル地区では、ウイグル人が中国による民族浄化を恐れているのだが、歴史を振り返ってみれば、ウイグル族が中国を支配しようとした過去の経緯もあった。いずれにしてもチベットでもウイグルでも、長い歴史の背景があるため、同じ中国のなかに位置づけられているとはいえ、独立した価値観を守りたいとする気持ちが強いと思われる。
となると、中国がそうした少数民族の価値観や伝統を十分理解し配慮しなければ、こうした抵抗や暴動はこれからもあとを絶たないに違いない。中国国内だけで主な少数民族は70にも達する。宗教的な、あるいは精神的な世界を公に認めない共産党による一党独裁体制からすれば、イスラム教にせよチベット宗教にせよ、その根本的な違いを理解した上で共存共栄の道を探るのは並大抵のことではできない相談かも知れない。
文化大革命の時代には、仏教寺院や宗教関係の施設がことごとく破壊された。そんな宗教弾圧の時代からさほど日が経っていないにも関わらず、昨年までの胡錦濤主席の時代には、儒教の教えの重要性を外国にアピールしようとしていた。その具体的試みが、北京オリンピックに他ならなかった。開会式の演出などは、まさに中国の歴史のオンパレードであり、いたるところに儒教の教えが組み込まれていたではないか。また、オリンピックの期間を通じて、北京のホテルのすべての部屋に孔子の著わした『論語』が置かれていたことは記憶に新しい。
そうした努力がどこまで成功したかは疑問であるが、中国が世界の一員として経済、政治、文化あらゆる面で仲間入りをしようとしていることは間違いなさそうだ。現在の習近平主席はどのような路線を歩もうとしているのか。盛んに「中国の夢」という言い回しを使っているが、いまだはっきりとはしない。世界の共通の価値観に合わせようとすればするほど、現在の共産主義体制の下での矛盾が噴き出ることになる。どこまでそうした矛盾をカモフラージュするのか、あるいは中国自身が根源的なところで変わっていくことができるのか。日本にとっても世界にとっても他人事ではない。
内的な要因によって変わる可能性もあれば、旧ソビエトが崩壊したような、外的要因による国家体制の崩壊、という極端なシナリオもあり得るだろう。何しろ中国国内では貧富の格差が急速に拡大している。また、地域間の格差や、PM2.5に代表されるような環境汚染がもたらす生命格差、という新たな事態も深刻化する一方である。
こうした状況から内部の不安定さが激化し、暴動や現政権に対する転覆工作すら起こりうる可能性も否定できない。現状に失望し、未来にも希望を持てない人々が多く生まれているからだ。彼らが自暴自棄になった場合、社会の不安定要因となることが懸念される。また、経済や環境の不安定さゆえに、宗教や精神的な世界によりどころや救いを求めようとする人たちも増えている。地下にもぐり宗教活動や精神世界に救いを求める人の数も、1億人に達すると言われるほどである。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。
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