自然の力は時に我々を畏怖させるほどの強いエネルギーを持っている。自然のエネルギー、特に樹木の力に注目し様々な種類の植物の精油を組み合わせ、アイディア商品をつくる企業、(株)フイルドサイエンスが北九州市に存在する。
<自然物の洗剤、福島の除染作業で活躍>
2年前の3月11日、母なる大地は牙を剥き、東日本で起きた天災は深く大きな爪痕を残した。今でも、進まぬ復旧に被災地はどこも頭を抱えている。福島では原発事故での放射能の除染作業が進んでおらず、住民は不安と焦りを抱えて生活している。
そのようななか、北九州市門司区に本社を構える(株)フイルドサイエンスで製造した製品が、福島県の除染活動で活用されている。
同社が除染作業で使用する洗剤は、化学物質などを使わずにできた天然もの。本業は、天然の除菌消臭液を間伐材作る会社だ。間伐材とは、森林の成長過程で密集化する立木を間引く(間伐)過程で発生し、使用されず捨てられていた木材だ。同社は、樹木本来がもつ効能に着目し、捨てられるはずのものから、油を搾りだし、精油をつくる。同社では、長野県など全国5カ所の工場で抽出したヒノキやマツなど35種類の精油を調合し、除菌消臭液などの商品作りを行なっている。
自然の力は、普段は人にとっても良い影響を与えている。いい影響が出るか、悪い影響が出るのかは紙一重の部分でもある。同社は自然の、特に樹木が持つ力1つひとつを研究し、植物が持つ力を有効活用しようと取り組んでいる。
除染活動で化学物質の含まれた洗剤を使用すれば、その成分が副作用のように、悪影響を及ぼす。しかし、天然ものであれば悪影響の心配はない。また、天然物のみだが、除染効果は抜群であるという。
同社が現在、取り組むのは、洗剤や消臭剤だけではなく家庭用スプレー、植物エキス入り口臭予防キャンディなど多岐にわたる。
<母の思いは世の為に>
同社代表取締役の濱野滿子氏は、離婚を経験し、3人の子どもを養うために電機メーカーの営業や魚市場の手伝いなど掛け持ちしながら必死で働いた。そんななか、次女を輸血の事故で亡くす。それまで必死に働いていて面白みも感じていた仕事だったが、何故、子どもが亡くなったのか、そんなことをずっと考えているうち仕事の楽しさよりもかけがえのない命の大切さを改めて認識。
子どもを失い、自分自身を責め続けた濱野氏は、子どもが何故亡くなったか理由を知りたいと、臨床検査の企業に入社し、毛髪分析の仕事に携わるようになった。
そうしているうちに、命の大切さから、何か世の為、人の為になることはできないだろうかと模索をはじめる。
濱野氏は、臨床検査会社で働くなかで、植物エキスの安全性検査を行なった。植物にニオイを消す力がある事を認識。この自然の力で、悪臭対策や空気を変えることはできないだろうか、ニオイを消す力をどうにか商品化できないものかと悩んでいたとき、無造作に捨てられている間伐材を見つけ、これを活かそうと取り組むようになり、同社の取組みが本格化した。
<思い立ったが吉日、行動力が成功を生む>
トンネル掃除の際にコンクリートから粉が発生し、この粉が身体によくないという話を耳にする。これを聞いた濱野氏は、植物の年輪にあるリグニンをコンクリートに混ぜるアイディアを思いつく。リグニンとは、木の年輪部分に含まれ柔軟性を保つ働きをする成分で、これを混ぜれば粉が飛ばなくなるのではないかと閃いたのだ。
思い立ったが吉日、濱野氏は間伐材からリグニンを取り出す実験をはじめた。実験を繰り返し、リグニンを取り出す過程で樹木の液が出た。まとめて捨てようと溜めていると、これがいい匂いを放っていた。この抽出液は、いい匂いだけでなく、植物にまけば育成剤としての効果があるのではないかと、詳細を調べるために研究が始まり、筑波大学、福岡大学、太宰府農林試験場、農林省の研究へと進んでいった。そして、その過程で室町時代から累々と言われ続けていた消臭作用を証明することになった。
更にさまざまな効果がある事に気づき、濱野氏は分析を続行する。分析結果が科学的に証明できれば、お客様にも商品を、自信を持って勧める事ができ、安心して買ってもらえるからだ。分析は決して安くはないが、今まで1億円以上のお金を分析費用に投じ、安全性と機能性を証明してきた。
そうして、安全性と機能性を証明された自然の力のみの商品は、現在では広く、食品メーカー工場内で消臭、殺菌を目的として掃除で使用されたり、栄養剤として農場で使われたりと幅広く活躍している。
次々とアイディアを閃いては積極的に繰り返す同社は、今後も様々な新たな環境に優しい自然の力を利用した商品をつくりだしていくだろう。
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