<取締役会議(13)>
3人の発言を受けて議長の栗野は、
「取締役会議には午前中の経営会議のメンバー11人に、新たに4人の取締役が加わり、そのうちの3名からご意見をいただきました。もう一人取締役会議に出席しています堀部取締役のご意見を伺いたいと思います」
と、堀部に発言を求めてきた。
守旧派からも改革派からも『谷野頭取交代劇』(クーデター)を持ちかけられていなかった堀部が、どの様な発言をするのかに出席者の注目が集まった。
栗野の指名を受けた堀部は、
「私の考えを申し上げます。今まで3人の方が動議に賛成され谷野頭取の再任に反対する意見を述べられましたが、私は動議に反対し谷野頭取が提出された当初の人事案に賛成します。
その理由として谷野頭取は就任直後赤字決算を決断され、谷本頭取が手をつけなかった不良債権を処理されました。その後すぐに大蔵省検査が入りましたが、谷野頭取の思い切った不良債権処理によって新たな貸倒引当金を積むことなく、無事にクリアすることができました。
またこの3月期の決算では業績は急回復しており、これもひとえに谷野頭取の先見の明だと思っております。そのような状況のなか、不幸にして顧客の定期預金流用事件や情報漏洩事件が立て続けに発覚しましたが、その不祥事件はいずれも谷本相談役が頭取時代に発生したものであり、谷野頭取になって表面化したものです。
それでも谷野頭取は自分の責任において、不祥事への対応に真剣に取り組んで来られました。先ほどどなたかから『様々な事故・事件があり、行員を始め行内のムードが沈滞している』とのお話しが出ましたが、金融庁から業務改善命令が出ている状況であり、『法令遵守』や『綱紀粛正』を徹底することは当然なことではないかと思います。再発防止を図るためには、『行内規定の順守』や『行内研修』などを通じて周知徹底することが求められています。これは頭取だけの責任ではなく、我々役員を始めとして全行員が二度とこの様な不祥事は起こさないとの反省の上に立って、真摯に対処していくことが必要ではないでしょうか。
それから谷野頭取が厳し過ぎて聞く耳を持たないとのご批判がありましたが、もしその様なことがあるとすれば、谷野頭取も頭取として、今後は皆さんの意見に素直に耳を傾け、反省すべきは反省すれば良いことであり、頭取を罷免する理由には当たらないと思います。
谷野頭取自らが関係する大きな事件・事故があって、責任を問われている事態であれば話は別ですが、そんなこともなく一生懸命に頭取の職務を果たされておられます。谷野頭取は就任してわずか2年しか経っていないのに、退任されることになれば行員はもちろん、株主や取引先など、対外的にも納得を得られるものではないと思います。この様な時こそお互いが力を合わせて維新銀行をより良くしていくべきではないかと考えます」
と意見を述べた。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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