「majimeni sigoto ganbaritay」(マジメニ シゴト ガンバリタイ)
送り主は、店で働いていたロシア人の娘という。苦笑いの店長は、彼女をなぜクビにしたかを話し始めた。
年は30歳手前ぐらいではないかというその娘は、普段は大人しく、見た目もいいことから、座っているだけで客が寄ってきそうなタイプだったという。緊張していたのか、それとも猫をかぶっていたのかはわからないが、入店して2日ぐらいは何事も起きなかった。
3日目、事件が起きた。その日、店長と付き合いの長い常連客が訪れる。年は70歳手前。世間で「成功者」と言われる老紳士だ。新人のお披露目ということで、店長はロシア娘を付けた。物腰の柔らかな老紳士に、緊張がほどけたのか、ドリンクを頼み始めたという。直後、様子が変わった。
今までの大人しい雰囲気が一変、突然、決して広くはない店内で踊り始めた。一瞬驚いた老紳士だが、このサプライズにたいへん喜び、2万円のチップをやった。「今思えば、あのチップでスイッチが入ったのかもしれません」と店長。ロシア娘のダンスはその後も続き、ついには上着まで脱ぎ始めようとした。
その時、老紳士が「だいぶ酒が入っているようだから、酔い醒ましに食事に行かないか?」と提案した。幸い店がヒマだったこともあり、少し早じまいして、店長、老紳士、ロシア娘と他のスタッフも入れて4人でアフターをすることになった。そこで惨劇が起きた。
「まったく突然のことだったから、本当に何でそうなったのかわかりません。(ロシア娘の様子が)ちょっと静かだと思っていたぐらいです」と、目撃したスタッフは語る。アフターの場所は、老紳士の行きつけという少しいい値段の和風居酒屋。出されたおしゃれなサラダを前に突然、ロシア娘が、老紳士の顔に強烈な平手打ちを食らわせ、みぞおちへと拳を叩き込んだ。床に伏し、悶え苦しむ老紳士。「ワタシ、ピザタベタイ!!」。しかし、そのサラダはロシア娘のオーダーだった・・・。
「あれでは、怖くてとても雇えませんよ」と店長。実は、そのロシア娘、出身地から『カラフトの狂犬』の異名を持つ、中洲では少し有名な存在。酒が入ると人が変わり、暴行や全裸事件など、すぐにトラブルを起こし、さまざまな店を転々としているという。
また、店長の携帯がメールを受信。今度は平仮名で、「とうきょうつかれた。ふくおかにもどりたい」と書かれていた。どうやら東京でも失敗したようである。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポートしてきた男の遊びコンサルタント。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の歓楽街関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲(福岡市博多区)にほぼ毎日出没している。
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