＜取締役会議（16）＞
大沢監査役の発言の後、守旧派と改革派双方が、谷野頭取の罷免の是非を巡って激しい論戦を展開していくことになった。
12時20分から始まった取締役会議は２時近くになり、議長の栗野は、
「それぞれまだ主張されたいことは多々あろうかとは思いますが、時間も押し迫ってきましたのでそろそろ採決に入りたいと思います」
と述べると、議場は張り詰めた空気に包まれていった。
栗野が、谷野取締役頭取を選任する当初提案について、賛否を問うと、
賛成 谷野頭取、石野専務、堀部取締役、梅原取締役、木下取締役、小林取締役の６名
反対 沢谷専務、吉沢常務、北野常務、川中常務、松木取締役、大島取締役、下田取締役、原口取締役の８名
棄権 栗野会長
という結果となった。
議長の栗野は、
「賛成６対反対８棄権１という結果につき、反対が出席取締役の過半数に達したことから、当初提案を否決します」
と告げた。
次に栗野は、
「新任の取締役候補者として蔵元崇氏の推薦がありましたが、それについて何かご意見はございませんか。なければ採決に入りたいと思いますが」
と述べると、
谷野が挙手し、
「新任取締役を決定する人事権は会長と頭取にあり、古田康彦氏については会長と相談して決めたものでありますが、それを無視して自分たちが気に入った蔵元崇氏を新任取締役候補として提案することは経営の私物化であり、私は蔵元君を取締役候補とすることについて会長と話し合ったことはありません。私が退任することは決まったことだから仕方がありませんが、この様なことを謀議で行なっているのならば維新銀行にとって大変なことであり、ルール無視も甚だしいと思います。従って、私は対案として取締役候補に柏木諒氏を推薦します」と述べ、動議を提出した。
しかし谷野が提案した柏木諒氏を取締役候補とする案は、賛成６名、反対８名で否決された。
次に沢谷が蔵元崇氏を取締役候補とする案は、賛成８名反対４名棄権２名で可決されたが、この２つの採決には議長の栗野は加わらなかった。
採決の結果を踏まえ議長の栗野は、
「第95期定時株主総会決議事項第３号議案については、この度の総会に選任を提案する取締役候補者を北野俊弘、川中隆史、梅原哲夫、大島俊之、木下秀男、小林辰彦、古谷政治の各氏の他、新任取締役として古田康彦氏、蔵元崇氏の計９名とすることに決まりました」と告げた。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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