17年前、期待に胸をふくらませて住み始めたものの、マンション購入の夢が"悪夢"に変わった。福岡県久留米市の分譲マンションで耐震強度が基準の22%程度とわかり、「恐怖のマンション」と化したのだ。住民は再計算した構造計算書を久留米市に提出し、耐震強度の検証を2月から求めているが、市の検証結果がまだ出ていないことに、住民は苛立ちを募らせている。
<検証に4カ月かかるのでは遅い>
このマンションは、新生マンション花畑西(延床面積約8,160m2。92戸)。元請・鹿島建設(株)、地場建設会社が施工し、新生住宅(株)が販売した15階建て分譲マンションだ。
久留米市は住民らに対し、「安全に関する緻密な検証なので、慎重に確認作業をしたい。再計算なので、通常の確認申請よりもシビアにチェックするから、時間がかかる」としている。
久留米市の検証の結果でも構造計算が不適合になった場合、最悪、退去命令などが出される可能性が極めて高い。久留米市は、そうした最悪の事態を考えて、「行政だけの検証で判断していいのかどうか、客観的な判定が望ましい」と、第三者機関に検証を依頼する方針だと住民側に示していた。
5月15日、久留米市の住民への説明では、検証手法等の協議に約2カ月、第三者機関による検証そのものに約2カ月の合計4カ月間かかり、結果が出るのは9月末という検証スケジュールが示された。そのため、住民側は「結果が出るまでに、地震が起きて住民の命にもしものことがあったら、市は責任を取ってくれるのか」と反発し、「せめて2カ月で結果を出してほしい」と強く要請している。久留米市は「早められるよう努力する」と回答したという。
住民らによると、久留米市は、「建物が今の法律に合うかどうかではなく、当時適正に建てられたかどうかが問題になる」として、住民側に建築確認申請当時の構造計算プログラムによる再計算結果の提出を求めたというのだ。
設計当時のプログラムは、「SS1(前期)」で、すでに廃版になっており、所有する者は極めて少ない。博物館で保存しているようなプログラムである。住民側に依頼された専門家がプログラムを探し出して、いざ再計算結果を提出したところ、今度は久留米市が、そのプログラムを所有しておらず、検証が遅々として進まないのである。
住民の不安と不満は、爆発寸前に達している。
<逃げを打ったJSCA 検証たなざらしは許されない>
久留米市は、第三者機関の判定を仰ぐとして、JSCA九州支部に検証を依頼すること、JSCAも相談を受けると回答したことを住民らに説明していた。ところが、久留米市の住民側への説明によると、5月17日に同市がJSCAと協議したところ、一転、検証を引き受けられないとなったという。理由は住民には知らされていない。
JSCAとは、「一般社団法人日本建築構造技術者協会」の略称であり、自ら「建築構造に関する高度な技術と豊富な実務経験を有する建築構造技術者の団体」としている。05年に発覚した構造計算書偽装問題で、構造計算書の適正確認(構造レビュー)でその役割がクローズアップされた。
構造レビューとは、JSCAのホームページによれば、提出された構造設計図書などについて、書面上でチェックできる範囲内で、建築基準法および施行令等の耐震規定上妥当かどうかの判断をするというものだ。
住民側が求めている検証も、再計算した構造計算書の検証であり、JSCAのいう構造レビューにほかならない。
ところが、久留米市は住民との話し合いで、検証の手法も含めてJSCAと協議するとして、再計算そのものも依頼したい方向を示していた。
専門家は「方法論と言うが、設計当時の正式な構造計算書が残されていないので、竣工図から再計算した構造計算書でチェックする以外にはない。必要なのは、提出した構造計算が妥当かどうかのチェックだ。1週間あればできる。耐震強度が想像を絶するほど低く、住民の生命にとって緊急を要する事態だ。もちろん第三者があらためて構造計算してもいいが、JSCAは、当時の構造計算プログラムを持っていないはずだ」と指摘する。
JSCAが設計当時のプログラムを持っていないということは、住民側が3月上旬から指摘し続けてきたにもかかわらず、市は検証に向けた段取りについて何ら手を打っていなかったことになる。
マンション管理組合の下川紗葵理事長は、「JSCAに検証を受けてくれるのか打診してみたらどうかとか、『SS1(前期)』を持っていないということは何カ月も前から私たちが言ってきた。それなのに、今になってJSCAが検証を受けてくれませんでしたでは済まない」と、怒りをあらわにする。
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