2011年3月、九州新幹線鹿児島ルートが全線開業し、これまでの移動環境に大きな変化が生じた。鹿児島県は観光客増加に沸き、福岡市は、『世界No.1のおもてなし都市・福岡』の実現という壮大な目標を掲げて、観光関連の施策に税金投入を集中させている。
九州全体を見わたしてみると、全線開業をまたとないPRのチャンスととらえた県、あるいは、これをピンチだと考えて危機感を持って対策を講じた県など、さまざまだ。
日本全体の観光という視点に立てば、ここ最近の円安が大きな影響をおよぼすと考えられる。外国人から見ると、今まで以上に日本を気軽に訪れることが可能となるうえ、買い物が容易になるという大きなメリットがある。
昨年会った香港人の20代男性は、当時次のように話していた。「僕は日本が大好きで、何度でも行きたい憧れの国のひとつ。しかし、日本は物価が高い。お金がないから、なかなか行けない」。
こうした外国人にとって、訪日のハードルは随分低くなっている。東日本大震災と福島原発の事故、竹島・尖閣の領土問題など、インバウンドツーリズム(訪日旅行)の面でマイナスに働く要因が多かったが、円安は久々の朗報なのだ。円安で動く為替相場が大きな恩恵をもたらすことが予想され、旅行業界や観光施設など、国内観光に携わる分野の産業にとって、今がチャンスとなっている。
NET-IBでは、九州の観光の現状と今後の動向を知るべく、各県の観光の現状、戦略などについて調査を実施。まず、九州7県のうち、最も観光による経済的恩恵を受けているとみられる県について検証してみた。
各県が公表している数値を基に、九州新幹線全線開業前となる2010年(年度)の各県の宿泊客数の比較を行なったところ、九州で最も宿泊数が多かったのは約997万人の長崎県という結果だった。2位の熊本県が約646万人であることを考えると、宿泊客の多さは歴然だ。
長崎県は、原爆投下の歴史的背景もあり、もともと全国的に修学旅行が多い地域。加えて、2010年には長崎市出身の福山雅治氏が主演したNHK大河ドラマ「龍馬伝」の影響もあって観光客が増加していた。
宿泊客数には、日帰り観光客の数値は含まれないため、これで長崎県が九州の観光客で最も多いとは断言できないが、長崎県にとって観光が重要な産業であることは間違いない。
九州新幹線全線開通前は、九州のなかでは断トツの宿泊客数を誇ってきた長崎県だが、いまだに九州新幹線長崎ルートは未開通だ。長崎県が策定した観光戦略の資料には、「九州内の北から南への縦軸移動が強化されるのではないか、との危惧を生んでいます」という記載もあり、鹿児島ルートが全線開通したことで危機感を抱いていることがうかがわれた。
危機感を抱いた長崎県をはじめとする自治体は、九州各県、あるいは日本の観光の状況をどのように分析し、対策を講じようとしているのか。さらには、九州新幹線の全線開通を千載一遇の機会ととらえた自治体は、これをどのように活かそうとしているのか――。
"九州はひとつ"とも言われるが、各自治体が取り組む観光戦略はそれぞれに方向性が違っている。
NET-IBでは、九州各県の観光の現状や独自の取り組みを県別に報じていくなかで、九州全体が目指すべき方向性を探っていくが、とりわけ福岡が果たすべき役割とは何かについても考察してみたい。
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