<芸術としての評価とビジネスの評価は別!>
もはや「MANGA」は世界共通語で、アメリカやヨーロッパでは、アニメのコスプレが日本文化として人気を集めている。しかし、日本のアニメ、マンガは、外貨を稼ぐ収益性の高いビジネスにはなっていない。作品の芸術としての評価とビジネスの評価は別である。「クールジャパン」と胸を張る日本人だが、実は世界で儲かるコンテンツを確立しえていないというのが、板越氏がこの本を書いた動機である。たとえば、アニメやマンガを含むコンテンツ産業の海外輸出比率は、アメリカが17.8%であるのに対し、日本はわずか5%である。
板越氏はNY在住の起業家で、出版、米国会社設立コンサルティング、版権エージェント、イベント事業を手がけている。また、日本の大学(中央大学政策文化総合研究所など)の客員研究員や講師として、毎月のようにニューヨークと日本を往復する生活を送っている。本書では、アニメやマンガを芸術性ではなくビジネスの視点から俯瞰、外貨を稼ぐ収益性の高いビジネスにし、さらに日本を「知財立国」にする道を探っている。
マンガ・アニメなどのコアなユーザーである14歳以下の人口は、1980年から2005年の間だけで約1,000万人が減少、今後20年でさらに約650万人が減少すると予測されている。そこで、コンテンツを積極的に輸出し、外貨を稼げるビジネスに変えていこうとする日本政府の考えは正しい。
しかし、第1回クールジャパン推進会議(3月4日)での「素晴らしい日本のものは、日本に対する尊敬を生む」と言う安倍首相の発言は、一国の首相としてはとてもお粗末だ。ガラパゴス島・日本そのものである。
国際競争力を持つためには、しっかりとした「知的財産戦略」と「マーケティング戦略」が必要不可欠である。著者が面白い例を本書に載せている。
日本人「私たちの製品は素晴らしいのです。この商品は使ってもらえれば絶対にわかります」に対し、米国人「なんでおまえのところの製品は、使ってみるまで良さがわからないのか」という発想の違いがある。
<文化経済におけるナショナリズムの台頭!>
アメリカを中心に、どの国でも文化経済におけるナショナリズム「カルチュラル・エコノミック・ナショナリズム」(Cultural Economic Nationalism)が台頭している。日本のアニメやマンガがアメリカ市場に入ってくることに対し、ハリウッドやアメコミ出版社は危機感を抱き、意図的に日本のアニメを放映させない傾向が出ている。中国や韓国は、日本のアニメやマンガを見られないように、政府が一定の規制を行なっている。
米国のキャラクター企業の大手である4キッズ・エンタテインメント(日本の「ポケモン」や「遊戯王」で事業を拡大、地上波ネットワーク・The CWでは日本のアニメを中心に子ども番組を集中放映)の会長アルフレッド・カーン氏は、06年開催のカンファレンスで次のような驚くべき発言をしている。
「マンガは問題です。アメリカ人は本を読まない文化なのです。今のアメリカの子どもは本を読みません。従ってマンガは終わりです。日本は終わりです」。同会長は、日本のアニメを米国の市場向けに大きく内容改変することでも悪名高い人物であるらしい。
<戦略なきクールジャパンは草刈り場に!>
アベノミクスにおける経済政策「民間投資を喚起する成長戦略」のなかに、アニメやマンガに代表される「クールジャパン」という政策がある。出資金が500億円用意されることになっている。著者の言うように、しっかりとした「知的財産戦略」と「マーケティング戦略」がなければ、"手ぐすね"を引いて待っている電通を筆頭とする広告代理店やプロダクションの草刈り場となる可能性が高い。一昨年のAKB48シンガポール公演の際には、「クールジャパン戦略」と称し、AKB48の宣伝費として多額の血税が使われたという疑惑がメディアに載ったことは記憶に新しい。そう言えば、今回の政府のクールジャパン推進会議議員には、AKB育ての親と言われている秋元康氏も就任している。
国家ブランディングの草分けは、「クールブリタニア」の英国である。しかし、同国では多額の税金を投下したが、投資効果に大きな疑問が出て、今では誰も口にしない"死語"になっている。実は、これを成功できる国は、イアン・ブレマーの言ういわゆる「国家資本主義」の国だけと言われている。もちろん、日本はそうではない。
「クールジャパン」プロジェクトは、国民の厳しい監視のもとに、よくよく慎重に進めないといけないのである。
<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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