「福岡県風俗案内業の規制に関する条例」が今年4月1日に施行され、中洲の客引きへの取締りが厳しくなっている。4月下旬には、200名ぐらいが博多署に連行されるという大捕物があったと書いた。それら一連の客引きに関する記事を読み、小生に「会って話がしたい」という『現役』の客引きから、知人を通じてアポイントがあった。ここ数年で中洲の客引き事情がどのように変遷してきたのか。今回、最前線にいる客引きに話を聞いた。
待ち合わせのスナックにいた客引き(以下、A氏とする)は、30代半ばの男性。大人しく実直そうな青年で見た目からはそれとわからないが、実は、某グループの専属(契約上の関係なく、優先的に特定のグループや店に案内する存在)として、すでに3年ほど客引き稼業を続けているという。
客引きの増加に関して警鐘を鳴らしている小生の記事についてA氏は、おおむね好意的に受け止めていた。「ここ数年、フリーの客引きが急増し、それぞれのナワバリをめぐって揉め事も起きている。客の数が限られているなか、客引きが増えることで1日の案内件数が減り、稼ぎが減った者も少なくはない」という。
一体、どれほど稼げるものなのか。単刀直入に聞いてみると、「長くやっている人では月50~60万くらいだろう」という答えが返ってきた。もちろん、セールストークなど腕がものを言う仕事なので、全員がそれほど稼げるというわけではない。なかには、ポッと出の若い客引きが月50万も稼ぐことがあるという。そうした成功体験が、口コミで広がり、客引きを増加させる要因となっているようだ。
ただし、ベテランと新米では同じ稼ぎでも内容が異なる。ベテランの場合、中洲で顔が広く、案内を受ける客側に信用もあり、客のほうから連絡を受けて、店を手配することが多い。しかし、そうした〝顧客〟がいない新米は、路上で客を捕まえ、場合によっては客の希望と内容が違う店にも案内する。案内される店は、客引きへのバックが多いところばかり。多額のぼったくりは減っているものの、そうした案内を受けた客は、「聞いていた話と違う」と不満を抱き、「中洲全体のイメージを悪くしている」(A氏)という。
目先の商売で月50万を稼いだとしても、それが持続しないことは明らか。それもわかった上でやっているバイト感覚の客引きは、短期集中で荒稼ぎし、別の人間へと代わっていく。現場にいるA氏は、「厳しい取締りは現在も続いているが、客引きの数は減ってはいない」という。〝月数十万稼げるバイト〟という認識で群がる若者は後を絶たず、客引きをする大学生もいるくらい。増えすぎた客引きを減らしていくには、まだまだ時間がかかりそうである。
とはいえ、客のほうもバカではない。「客の希望を無視した案内が増えたことで、安易に客引きについていくお客さんが減っている」というA氏。その対策として、既存のフリーペーパーや案内所の関係者であるかのごとく見せかけ、信用させるといったやり方も増えてきた。客引きの熾烈なサバイバルが始まっているようだ。
飲食や風俗を含めて約1,900軒がひしめき合う中洲において、自力で好みの店を探すのは難しい。そこで詳しい人間に聞くというのは自然な流れと言えよう。ただ、自分たちの希望とは関係なく、店を案内する存在がいることを頭に入れておいてほしい。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポートしてきた男の遊びコンサルタント。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の歓楽街関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲(福岡市博多区)にほぼ毎日出没している。
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