台湾のテレビ局でスポーツジャーナリストを務める鍋光氏。福岡にもゆかりがある彼が語る、台湾メディアと福岡メディアの違いとは――。
3月8日、東京ドームで行われたWBC第2ラウンド「日本対台湾」は、印象に残る名試合となった。第2ラウンド初戦からの好カード、勝てばアメリカラウンド進出への大きな一歩となる試合だ。
第3回WBCで日本は、参加の是非、監督選考、選手選考などで様々な問題を抱えていて、野球ファンもWBCに対して「曇った」視線を持っていた。過去の2大会は、王貞治監督、イチロー選手、メジャー組の日本代表への合流・・・など「日本を応援しよう」という気運で盛り上がっていた。しかし、今大会は「曇った」野球ファンの視線の中で、「サムライジャパン」などと奇怪なチーム名を無理やり呼ばせる圧力、福岡ラウンドでは、日本を勝ち上がらせるような意図的にも思える組み合わせが潜在的な違和感を生んでいた。
一方、台湾は強豪チームが密集した第1ラウンド(他は、韓国、豪州、オランダ)を見事に勝ち上がり、さらには大会の目玉である王建民(元ヤンキース)も豪州戦で上々の出だしを見せるなど、東京ラウンドに向けて、気運を高めていた。
そんななかでのWBC第2ラウンド初戦は、日本と台湾のぶつかり合いだった。実は、台湾メディアには「台湾の先発投手の選択」に不安を感じる論調もあった。先発は王建民だった。初戦にエースを持ってくるというのは常套手段だが、「日本的な野球の視点」では、「保険をかける」ということを重要視する。2連覇の日本のチーム力を考えれば、なおさらだ。台湾は、現実的に「日本に負ける」という前提だった。その後、敗者復活をスムーズに勝てる投手配分を考えて、絶対的エースである王建民を日本戦で回避、温存させたうえで、2戦目以降に持ってくるという方法も考えられたのではないか。
王建民は確かに抑えた。6回無失点。今大会でアジアブロックNo.1の投手と言えるだろう。しかし、WBCには球数制限がある。一人の「強い」投手が出てきたところで、中継ぎ、抑えの投手の格が下がってくれば、打者は攻略する。日本のように粘りのある打撃陣ならなおさらだ。2対0と中盤まで台湾がリードする展開だったが、私は台湾を応援する立場として不安を覚えていた。それは王建民の「球数がかかりすぎていること」だった。日本打線をゼロに押さえ込んでいたが、王建民の本来の出来からすると、球が抜けていたように思える。抜けているぶん、ボールになり、要所は締めるものの球数が増えていた。また、王建民が台湾の絶対的なエースであり、中継ぎ以降のピッチャーの力が下がってくるのは歴然。セットアッパーの潘威倫も好投手で実績はあるものの、年齢、球威を考えれば王建民とは比較にならない。郭泓志もメジャー実績、球威は圧倒的だが、複数イニング、日本打線を完全に抑えこむほどではない。王にはせめて7回まではもってほしかったというのが首脳陣の本音だろう。台湾が日本に勝つためのポイントは、王建民の「失点」ではなく、「何イニング投げられるか」であった。
球数のかかった王建民は6イニングでマウンドを降りた。終盤、同点に追いつかれ、勝ち越したものの、再び同点にされ、延長戦に日本に勝ち越された。絶対的なリリーフがいなかった台湾は後半リードを守りきれなかった。日本は延長戦に入っても「杉内俊哉」というエース格の切り札を残していた。勝敗の分け目は「王建民」のイニング数だったように思える。そして、一番のエースで初戦を落とした台湾は、砦を失い、2戦目のキューバ戦に大敗した。
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