5月23日に株価が大幅下落するまでは、経済上昇ムードでの消費の増加、円安での観光産業の盛り上がりなど、さまざまなところでアベノミクスの効果が出ていた。デフレ脱却に向け、日本経済は復活の兆しが見えていたが、長期的に、新しい輸出産業の創出はできるのか?製造業にはプラス効果も見えていたが、今後、長期的な視点で日本経済のカギを握るクリエイティブ産業にとってはどうか。
20年続いたデフレ不況の期間中に日本が育んだデフレカルチャー。アニメ、アイドルの分析にも定評のある上武大学ビジネス情報学部の田中秀臣教授は、好景気への移行で、日本の誇るポップカルチャーの代表格で、アイドルグループのAKB48が「危機に立たされる」とユニークな持論を展開。なんと「デフレ脱却でAKBは終焉を迎える」と予測する。日本経済復活で消費行動が変化すると、ポップカルチャーにはどう影響するのか。
経済学者で、上武大学の田中秀臣教授に聞いた。
<リフレ政策の間口として>
上武大学の田中秀臣教授は、日本銀行の白川前総裁の政策を批判し続けてきたリフレ派の旗手として知られ、「デフレ不況」からの脱却を長きにわたって訴えてきた。田中教授が提唱してきたリフレ政策推進が、アベノミクスとして実現されようとしている。
サブカルに詳しいことでも知られているが、「リフレの間口を広げたいと思って、分析を始めた。アイドルについては、社会現象として注目してきた。若者たちに経済に興味を持ってもらうきっかけになればと思っている」と、アイドルと景気の関係性についてユニークな視点での経済論を展開している。
今や国民的なグループとなったAKB48は、5月22日に発売した新作シングルで初動176万枚のセールスをたたき出すなど、いまだ好調。だが、田中教授は、好景気への移行で、不景気に強いビジネスモデルであるAKB48は、下降すると推測。消費行動が多様化し、ストーリー性のある「心の消費」から、モノやサービスの幅広い選択をする「モノの消費」に移ると、AKBの人気は凋落するのではないかと分析する。
<心の消費からモノの消費へ>
「デフレは経済全体にとって良くないが、経済状況に応じて、文化も変化する。デフレに合った消費形態が芽生え、AKB48に代表されるようなデフレカルチャーが生まれやすい土壌にあった。デフレ不況下で、メンバーの成長物語を共有するという精神的なつながりを持つ、ストーリー性のある"心の消費"が受けた」と、AKBは、長く続いたデフレ下で芽生えた産物と言っても良い。
「コストが安く、所得が低い人も楽しめる。もちろん、たくさん買いたい人は、CDなどを大量に買うこともできるが、秋葉原の劇場公演も低価格に設定されており、デフレに強いビジネスモデルだと言える」と、低料金路線による不況下の若者たちにターゲットを絞ったマーケティング戦略が功を奏し、人気を獲得した。
そのデフレ不況下で生まれたAKB48。アベノミクスによる好況への移行で、「岐路に立っている。何か新しい手を打たなければ沈むでしょう」と、AKB48のファンでもある田中教授は、危惧している。
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<プロフィール>
田中 秀臣(たなか ひでとみ)
1961年生まれ。経済学者。上武大学ビジネス情報学部教授。積極的な金融政策によりデフレ脱却を図るリフレ派として知られ、日銀の金融政策を批判してきた。著書に『デフレ不況 日銀の大罪』(朝日新聞出版)、『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』(講談社)。サブカルチャーにも詳しく、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)、『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』(主婦の友社)などの著書もある。
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