<一人勝ちを生みやすい文化>
デフレ下では、所得が抑制されるため、選択の幅が限定されやすい。一人勝ちを生みやすいという。「今後、アベノミクスでのリフレ政策が成功すれば、所得が増える。所得が増えれば、選択が多様化する。消費が多様化した時に、"重要度"を維持できるかどうか。不況から脱出して、1年ぐらい経った時に、今の人気を維持できるどうか」と、経済的な側面からは、下降線をたどるのではないかと、予測する。
長い間、人気を維持しているアニメのコンテンツに「機動戦士ガンダム」がある。香港など国際市場でも広く受け入れられ、グローバルに成功している日本のアニメコンテンツの1つでもある。「ガンダムは、不況を背景にヒットして、ガンプラ(プラモデル)などコアなファンを獲得した。長い間、人気があるのは、物語性が優れていて、心の消費を満足させるからである。また、アニメのキャラクターは年を取らないので、年齢層を問わず人気がある。AKBは、"会いに行けるアイドル"というコンセプトと、メンバーが成長する姿をファンが見守っていくという物語性は優れているが、メンバーが年齢を重ねていくと、消費行動が多様化した時に沈む可能性がある」。若者たちが、より高いモノや付加価値の高いサービスを消費できるようになった時に、これまで通り、"一強"として立っていられるのかどうか。
<ポストデフレでぶつかる「コスト病」>
サービス産業、特に、舞台、劇場などの文化産業では、スキルの向上によって、賃金を上げることが難しいと言われる。製造業であれば、規模を大きくしたり、機械化を図ることでコスト削減が可能だが、サービス産業は、人件費増加の壁にぶち当たることが多い。文化産業であるAKB48も、ほかのサービス産業同様、ダンスや歌唱のスキルが上がったメンバーの賃金を上げることが難しい「コスト病」に悩まされる。
「大正時代の初公演から連綿と人気を保っている宝塚歌劇団のように、劇場を中心にやっていくのか。新しいイベントの可能性を模索するのか。今よりも規模を縮小することも考えた方がいい」と、田中教授。デフレ下の若者をターゲットして生まれたという背景を持つAKB48は、景気上昇期に、新たな手を模索するべき時期にあり、難しいかじ取りを迫られている。
同様に、アベノミクスの前半が成功の兆しにある今、日本経済も、分岐点に立っている。
<プロフィール>
田中 秀臣(たなか ひでとみ)
1961年生まれ。経済学者。上武大学ビジネス情報学部教授。積極的な金融政策によりデフレ脱却を図るリフレ派として知られ、日銀の金融政策を批判してきた。著書に『デフレ不況 日銀の大罪』(朝日新聞出版)、『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』(講談社)。サブカルチャーにも詳しく、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)、『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』(主婦の友社)などの著書もある。
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