電気をどうつくるか。ほとんどの原発が停止している現在、それは大きな課題の1つとなっている。原発に頼ってきた電力政策が大転換を迎え、未来に向けてどう舵を切るべきかが模索されているのだ。それにともない、これまで停滞気味だった発電の新技術が次々と盛り返しを見せ、新たな提案がなされてきている。同時に、電力を使いこなすか、という点も見直されているところだ。北九州市八幡東区東田では今、北九州スマートコミュニティ創造事業と銘打ち、エネルギーに関するさまざまな実証実験がなされている。
<エネルギーを管理せよ>
各家庭で電気の使用状況を見えるようにする。そして管理する。これをHEMS(ヘムス)と呼ぶ。家庭(home)のエネルギー(energy)を管理(management)する仕組み(system)のことだ。事業所などの建物の場合はBEMS(ベムス)と呼ばれる。Bは建物(building)の意だ。HEMSもBEMSもそこでスマートメータなどを用いて、電気の適正利用による省エネを実現させてエネルギーの無駄を省こうという試みである。そして、それらデータをスマートメータで集め、地域の電力の適正化を図るというのが、スマートメータを活用した最大の目的となる。地域全体の電力を適正化に管理するシステムのことをCEMS(セムス。Cはcommunity、またはcluster)という。
<ダイナミックプライシング>
小さな電力の動きを漏らさずトレースし、それを中規模エリアの電力適正化につなげる。その延長線上にはスマートグリッドがある。これが全国に普及すれば、国規模での電力の最適化が実現できる。そのための実証実験なのである。電力の管理の仕方は今後、劇的に変化する可能性がある。そして、無駄なくエネルギーを使うことで、たとえばCO2排出量を減らしたり、支出を抑制したり、原子力発電から卒業したりすることが可能になるかもしれない。
電力の大きな問題の1つがピークカットだ。供給能力を需要が上回った場合、バチンと停電が広がる。これはちょうど、ブレーカーが落ちるようなイメージだ。下手をすると、パソコンのデータが消えてしまったり、大きな取引ができず金銭的損失が生まれたり、工場の生産管理ができなくなったりと、さまざまなダメージを受けることになる。それを避けるために、電力会社は最大需要がまかなえる分だけ設備を充実させているのだ。つまり、最大に電気を使っても、停電にならない量の発電の力を保持していなくてはならないのである。1年のうちに1時間だけ通常の2倍使う日があれば、その日でも停電にならない分の設備を持っていなくてはならないのである。これは、めぐりめぐって電気料金となって市民生活に影響を与えてくる。その電力消費量の山頂(ピーク)を下げること(カット)ができれば、保持すべき設備量を下げることにつながる。無駄がなくなるのはもちろん、電気代を抑えることにもつながるのだ。何より、安心して電気を使うことができるようになる。
そのための工夫も北九州では模索されている。「ダイナミックプライシング」と呼ばれるものだ。夏場の暑い日や冬の寒い日など、電力需給が逼迫するときには高く、充分に余裕のあるときは低く電気料金を設定することで、電気の使用を変化させようというものだ。本プロジェクトでは、5段階の料金設定を行なっている。
夏場、最高気温が30度を超えると予測される日に、ダイナミックプライシングが適用される。まずピークタイム(13:00~17:00)、デイタイム(10:00~13:00)、リビングタイム(8:00~10:00、17:00~22:00)、ナイトタイム(22:00~8:00)という具合に時間帯を分け、それぞれ価格設定をする。ダイナミックプライシングが適用される料金システムでは、ピークタイムの時間帯に5段階の価格差をつけられる。最も安価なレベル1と最も高いレベル5の間では、電気料金に10倍の差を付けている。それゆえ、電気が高い時間帯は、できる限り電気を使わないようにさせようという工夫だ。
実験では、ダイナミックプライシングを導入した111世帯と、導入していない69世帯の比較で行なわれている。ダイナミックプライシングが導入された世帯とそうでない世帯を比較すると、ダイナミックプライシングが導入されている世帯は、そうでない世帯に比べて9~13%のピークカット効果が表れたという。そして、ピーク時の電気料金が高ければ高いほど、ピークカットの効果が高まることも確認された。
「電気代の安い夜間にできることはできるだけ夜間でするなど、ピークを抑制する効果は顕著に表れています。暑い日は公共施設で過ごすなど、工夫をして電気代を抑えているという声も聞かれました。導入してよかったという声を多く聞かせていただきました。しかしながら、一方で、不便に感じる方もたしかにいらっしゃいますので、どの程度の価格差が適当なのか、見定めが必要だと感じています」(越智係長)。
ピークカット効果は高くても、我慢が限界を超えれば不満が噴出する。電力は生活を豊かにするためのものであるはずだ。その電力が、逆に生活を縛ることになってはいけない。不快と楽しみのバランスは、こういった実証実験結果を見ながら判断していくよりほか、やり方はないだろう。
こういった検証が積み上げられ、新しい電力の仕組みが生み出せるのだ。
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