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SNSI中田安彦レポート

黒田「異次元緩和」と財務省の増税戦略(3)
SNSI中田安彦レポート
2013年6月 3日 07:00
副島国家戦略研究所(SNSI)研究員 中田安彦

<リフレ派と反リフレ派の論争は「争点ずらし」>
 アベノミクスが始まって以来、野田民主党政権の頃には、書店では金融緩和を促す論者の書籍が氾濫していたのと打って変わって、「リフレはヤバイ」とかの安倍政権の金融緩和=リフレ政策の危険性を声高に言い立てる本をよく見かけるようになった。

 確かに私も実体経済がともなわないなかでの金融緩和は株高を演出するだけで一般の有権者に還元がない上に、株高で景気回復がおこったような錯覚だけが先行し、それを理由に財務省が既定路線通りに消費増税を政府に実行させる口実を作ってしまうことにもなりかねないと考える。したがって、私はその意味ではアベノミクスには慎重な立場をとる。しかし、リフレを危険視する人の論調の中には、インフレが急加速してハイパーインフレになるとか、日本国債が紙くずになると主張する向きもあることは見過ごせないと思う。リフレ派も反リフレ派も金融政策という狭い檻の中で論争しているだけの人たちであり、ほんとうに重要なのは、財政政策や成長戦略であるからだ。金融政策による株高だけでは、株式投資をやっていない人の財布は膨れない。日本はアメリカのように有価証券が家計資産過半数を占めるわけではなく、たかだか13%前後が株や債券だからだ。リフレと反リフレの論争が経済論争ではショーになりやすいことは確かだが、単なる本当の争点を隠しているだけかもしれない。

 私は極端な二元論でマスメディアが議論をでっち上げているときは、本当の争点はそこにはないのだ、と考えるようにしている。これらの二元論は極端に議論を単純化することで、論争を単なる罵倒合戦に陥らせてしまう。外野にいる読者にとってほんとうに重要な論点を気づかせないためにはこのような論争を行なわせたほうがいい、と権力者であれば考えるわけだ。

A-3.jpg ようするに反リフレ派が本当に国民の味方であるかも見極めなければならないのだ。私が財務省の広報戦略担当者であれば、アベノミクスを自らの増税戦略にとって合理的なようにコントロールすることを考える。まずは参院選までは株高や金融緩和を容認することとするだろう。しかし、同時にリフレに対する国民の恐怖心を過剰に煽ることを反リフレ派の論客を使って行なっておく。リフレ政策と反リフレ政策の二項対立だけしかないと思わせ、金融政策の外の財政政策と成長戦略(規制緩和を含む)があることを認識させないようにするのだ。リフレ派と反リフレ派の論争という争点ずらしに騙されてはいけない。

 財務省は、この間にも20日に財政制度審議会において、財政再建をしなければ金融緩和の効果は減殺されるという趣旨の報告書を麻生財務大臣に提出することがロイターなどのメディアで報じられた。政権交代前は、財務省の敵対勢力のように思われてきた麻生太郎だが、ここに来て財務省に取り込まれたかのようにみえる。

 ただ、財政政策をめぐっては、世界的な政策論争でも、政府債務の増加が成長率に与える負の影響を論じて、各国政府の緊縮政策の理論的な支柱になった、ハーヴァード大学のケネス・ロゴフとカルメン・ラインハートの政策論文の誤りが明らかになったことをきっかけにして、欧州諸国の間でもデフレ下における緊縮財政に対する反省が起きている。その意味で安倍首相にとっても財政出動を渋る財務省に対しても「反論材料」が出てきている。

 また、ノーベル経済学者でリフレ派ではないが、金融・財政のポリシーミックスを主張する、ポール・グルーグマン教授なども「FRBは安倍首相を見習え」という趣旨のコラムを書いているので世界権力層の中でもアベノミクスを支持する声は意外に多い。まあ、株高でもうかって恩恵を受けるのが外資系ファンドであるのだから当たり前の話だが。

 今の欧米メディアの論調を要約すれば、安倍首相が中国との間でこれ以上は、緊張関係を高めるような動きを見せなければ、規制緩和やTPP参加を打ち出している安倍首相は今しばらくは期待していいのだ、となるだろう。これが欧米の金融メディアの主流派の考えだろう。皮肉な論評をすることでも知られるイギリスの「The Economist」もそのような考えのもとに安倍首相をスーパーマンに見立てた笑えない表紙を掲げて特集を行なっている。

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<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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