<高支持率を背景に、むやみに攻撃に出る>
統制されるのは新人議員ばかりではない。
「村山談話はしっくりこない」――5月12日のNHKの番組で、高市早苗政調会長が述べた発言が問題になった。翌日の党役員会で、高村正彦副総裁が「政府・与党の幹部が誤解を受けたり、利用されたりする発言をすることがあってはならない」と苦言を呈した。以来、自民党内では村山談話、河野談話についてタブーとされ、所属議員が外部にコメントを出すのは全面的にご法度になってしまった。
また、野党時代には開放されていた政調会長会見なども、平河クラブ加盟社のみに限定された。理由は、「ネットを利用して自民党を誹謗中傷する行為を防止するため」というが、自民党が「守り」に入っているのは明らかだ。
同時に自民党は、「攻撃」にも出ている。たとえば6月14日告示、21日投票の東京都議選だ。
都議選は7月の参院選の前哨戦と見られており、国政と同様に自民党の躍進が見込まれている。なかには思わぬ結果を招きかねない事態も起こっていることに注視する必要がある。
「うちは全員が当選して当たり前。1人でも落とすことは許されない」と、公明党関係者が述べるように、都議会公明党の影響力は国政以上だ。過去に藤井富雄氏のような実力者を出したこともある。党を挙げて死守しなければならない議席のなかで、最も厳しいのが目黒区だという。
目黒区は定数3で、民主党、自民党、公明党で議席を分け合っている。そこに自民党が強気に出て、5月30日に目黒区議を「第二の候補」として立てた。その背後に、2009年の衆院選で東京5区から出馬した佐藤ゆかり参院議員の姿が見え隠れする。目黒区に隣接の世田谷区出身の佐藤氏にとっては、党内での勢力拡大のチャンスに思えたのかもしれない。そうなると、前回の都議選で一時は当選可能圏外にはじかれるなど苦戦を強いられたうえ、ようやく3位滑り込んだ公明党は弾き飛ばされる可能性は大きい。
「そんなことをしたら、公明党に参院選で選挙協力をしてもらえなくなってしまうじゃないか」――と、こうした目黒の動きを聞いて、自民党のある議員秘書は嘆いた。公明党現職の斎藤泰宏氏は北側一雄元国土交通相の政務秘書官を務めたこともあり、国政には顔が利く。自民党が高支持率を背景にむやみに攻撃に出るならば、その弾丸はどこに当たるかわからないという例だ。
<弱小勢力も動きを見せる>
そんな「隙間」を縫うかのように、弱小勢力もうごめき始めている。
「次期参院選で、愛知選挙区に減税日本の独自候補を立てる」――減税日本の代表でもある河村たかし名古屋市長がその決意を関係者に打ち明けたのは、橋下市長の慰安婦問題舌禍事件の数日後のことだった。
愛知選挙区は定数3で、自民党、民主党、みんなの党が優勢とされている。河村氏が注目したのは、日本維新の票から逃げる票だ。日本維新の会と協力したみんなの党の票も一定数逃げると見なした河村氏は、それらが自分のところに来ると計算している。
ただし名古屋市内では断トツの集票力を誇る河村氏だが、名古屋市外ではその神通力は通じず、負けが続いている。全県的にどこまで票を獲得できるかは未知数だ。
また、反原発と反TPPを掲げて昨年の衆院選にも出馬したタレントの山本太郎氏も出馬を決意している。5月27日夕方、参院議員会館で「山本太郎と大いに語る」が開かれた。その席で山本氏は次期参院選に出馬を表明。自分と主義を同じくする社民、生活、未来、共産などの共闘による統一名簿での比例を希望したが、各政党は山本氏に東京選挙区からの出馬を進めた。もっとも東京選挙区には山本氏と反原発・反TPPで政策が一致する民主党の大河原雅子参院議員も出馬を予定しており、その調整が必要になるために実際には難しい。
そもそも参院東京選挙区は定数5で選挙区中最多だが、公明党、自民党、みんなの党、日本維新の会、共産党などがしのぎを削る激戦区だ。かつては最大得票数を誇った民主党は今はその影もなく、大河原氏と鈴木寛氏の現職2名をともに当選させる力はない。人気投票を行なえば鈴木氏が有利と言われているが、大河原氏がそれを拒否している。双方が出馬すれば、共倒れする危険性も皆無ではない。
衆議院と異なって解散がなく、選挙後少なくとも3年間は勢力図が固定される参議院。優位とされる自民党は、どこまで議席を伸ばすことができるのか。与党で憲法改正に必要な3分の2の勢力を確保できるのか。民主党の復権はあり得るのか。日本維新の会の起死回生はなるか。反原発勢力は議席を獲得するほどの国民の支持を得られるのか。決戦の火ぶたは間もなく切られる。
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