<「育」と「耐」>
昨年末に行われたAKB紅白対抗歌合戦の中で、主力メンバーの一人、小嶋陽菜さんは、「来年(2013年)のAKB48がどうなるか、漢字1文字でたとえるなら?」とメンバーの大島優子さんに聞かれ、「育」と「耐」の2文字だと答えた。「新たなメンバーの育成をすることが大事なのと、初期メンバーの年齢が上がっていくことに耐えられるかどうか」というコメントをし、会場の笑いを誘ったが、これは、日本経済にも同じようなことが言える。成長してくる東南アジア各国や、厚顔な中国、韓国など海外のライバルとのし烈な競争と、国内の高齢化に「耐」えつつ、少子高齢化による人口構成の変化に見あった新たな軸となれる産業の芽を「育」てられるかどうか。まさに「育」と「耐」が、5~10年後の日本経済のカギを握る。
デフレカルチャーの代表的な存在であるAKB48が生き残るポイントは、「世代交代がうまくいくか。新陳代謝が大事」と、田中教授は語る。
<新機軸の産業創出できるか>
昨年12月から急激に上昇した東証株価は、5月下旬に入り乱高下しているが、田中教授は「ヘッジファンドが利益確定し、債券と株の間を行ったり来たりしているだけ」と、調整段階だと見る。
アベノミクスの前半部の成功で、デフレ脱却を達成できる可能性もある。失業率が低下し、賃金に反映するのは、「1年から1年半ぐらい後ではないか。インフレ目標を達成し、失業率が低下し、賃金が上がって実体を伴う経済になっていくかどうか。ここが達成できなければ、リフレ派は、間違ったことを言ったことになる。もちろん、そうはならないと思っています。雇用の改善、賃金が上がるのを待たずに、今の段階であれこれ言うのは間違い」と、田中教授は、もうしばらくは待つ姿勢を貫く。
長いデフレに耐え、それに慣れていた消費者のマインド。「デフレ不況は、人々の気持ちをリスクから遠ざける。デフレ不況下では、新しいことにチャレンジせずに、なるべく安全策を取る傾向にある」と、田中教授は分析する。
そのデフレ不況が、終焉の兆しを見せ、内向きから外向きの消費マインドへと変化していく。インフレ、好景気へと移行するこの局面。デフレ向きのビジネスモデルのAKBにとっては、新たな企画、イベントにチャレンジできるかどうかが勝負。同様に岐路に立つ日本経済にとっては、上昇トレンドに入っているとは言え、長期的に見れば、人口は減少。この時期に、今後の軸となれる新たな産業を創出し、育成できるかどうか。ここがカギとなるだろう。
まさに、一部ファンの間で、そのコメントの的確さなどを指して"天才"と称されることもある小嶋陽菜さんの発言のように、日本経済の未来は、「育」と「耐」の2文字で表すことができるのではないか。
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<プロフィール>
田中 秀臣(たなか ひでとみ)
1961年生まれ。経済学者。上武大学ビジネス情報学部教授。積極的な金融政策によりデフレ脱却を図るリフレ派として知られ、日銀の金融政策を批判してきた。著書に『デフレ不況 日銀の大罪』(朝日新聞出版)、『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』(講談社)。サブカルチャーにも詳しく、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)、『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』(主婦の友社)などの著書もある。
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