昨年11月14日、野田佳彦首相が自民党の安倍晋三総裁との党首討論で、「16日に衆院を解散する」と明言し、「12月4日公示・16日投開票」が決まった。野田首相の突然の衆院解散表明を好感して、低迷を続けていた株価は活況を取り戻すことになった。しかし、5月23日に株価が急落して以降、初めてアベノミクスの真価を問われる局面となっている。
<外国為替市場>
一方、外国為替市場は、野田首相が解散を示唆した昨年11月14日の時点で、ドル円相場は80円24銭だったが、第2次安倍内閣が発足すると、アベノミクスへの期待感から円安・ドル高へと流れが加速。円安による輸出産業の採算改善を好感され、軒並み株価が上昇。円安が株価上昇を誘発し、株価上昇が更に円安を加速させる状態となり、1つの抵抗線と見られていた100円の壁を超えて円安・ドル高が進んでいった。
さらに拍車をかけたのが、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長の発言である。22日、「景気回復が進めば、米国の量的緩和策を縮小する」旨の発言が市場に伝わると、ドル資産の金利が今後上がっていくとの見方が広がり、円を売ってドルを買う動きが広がり、22日の円相場はあっさり103円台に突入。4年7カ月ぶりの円安水準となっていた。
しかし、23日の株価急落を受けて、外国為替市場では安全資産の円を買ってドルを売る動きや、円売りに傾いていた個人の外国為替証拠金(FX)投資家が持ち高を手じまいする動きも見られた。円は夕刻には100円台まで円高が進む場面も見られたが、終値は102円台で、翌24日は101円、27日は100円台で推移しており、円安・ドル高か円高・ドル安のどちらに振れるかわからない神経質な局面が続いている。
<長期金利>
新発10年物国債利回りは、23日の朝に1%ちょうどに上昇(価格は下落)したが、株式相場の急落を受けて国債にシフトする動きが強まり、長期金利は0.835%で取引を終えた。
株価急落の翌24日、黒田東彦日銀総裁は午後の衆議院財務金融委員会で、「長期金利は景気・物価への期待で決まる部分とリスクプレミアム部分で決まってくるが、後者は日銀が年間50兆円を買い入れるオペが進むにつれ、圧縮が強まると見ている」と答え、そのうえで「今回の政策決定会合でも新たな対話を市場関係者に呼びかけており、買入頻度、ペース、買い入れ対象の調整をして、弾力的なオペを行なうことで、とくにボラティリティ(変動率)の拡大をおさめたい」と述べ、長期金利が跳ね上がることは容認しないとの認識を示した。その言葉を受けて、週明けの27日、新発10年物国債の流通利回りは一時、前週末比0.030%低下(債券価格は上昇)し、10日ぶりの低水準となる0.815%となった。
<問われるアベノミクスの真価>
安倍政権の経済政策「アベノミクス」の本質は、かつての自民党政権で見られた「金融と財政を通じて、思い切ってお金をばらまき」、多くの人に「景気が良くなっている」と信じさせることによって景気を回復させようとの「心理作戦」ではないかとの冷めた見方も出ている。
安倍政権発足後、「アベノミクス」は筋書き通り順調な滑り出しを見せ、株高・円安効果により日本経済は明るさを取り戻しつつあった。3年の間、政権を手放し、野党としての悲哀を味わった自民党に、夏の参院選(7月21日が有力)より早く株価急落の試練がやって来た。自民党は、政権与党時代から衆参のねじれ国会で辛酸を舐めてきた。その経験から、何が何でも参院選で圧勝し、参院で過半数の勢力を確保することが悲願である。
本来、独立性を維持すべき日銀までを巻き込んで「2%のインフレターゲット」を掲げた安倍政権にとって、アベノミクスの真価をより問われるのは参院選挙後の経済政策においてではないだろうか。
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