発電効率を高めれば、より低コストで、より大きな成果物＝電力を得ることができる。風力発電をいかに高効率化するか。九州大学応用力学研究所が提案する答えの１つがレンズ風車である。風車の外周にラッパ状のリングを付ける。すると気流の乱れが起こり、風車に当たる風の量が増す。単純だが、付けるのと付けないのとでは、発電能力が２倍も違うという。

＜レンズ風車は２倍発電＞
　風は大きなエネルギーを持っている。突風は自動車を横転させるし、海風は松の木を捻じ曲げる。自転車に乗っているときの、追い風と向かい風の乗りやすさの違いを思い出せば、風の力強さを簡単に理解することができるだろう。その風で風車を回す。それで発電はできる。だが、それだけでは、「風を最大に活かして発電しているか」という疑問に対し、NOと答えるよりほかない。九州大学応用力学研究所が世界に誇る技術「レンズ風車」は、風の能力を最大限生かす風車である。

　通常の風車の外周にラッパ状のリングを付ける。その径の細い側から太い側へと風を送る。風はリングの抵抗を受けて渦をつくる。真ん中のプロペラ部分を通り抜ける風は、外側を通ってできた渦によって引き込まれ加速される。風速はおよそ1.3倍になるのである。風をレンズのように集める仕組みが「レンズ風車」なのだ。風力エネルギーは風速の３乗に比例するため、1.3倍に加速された風は、そうでない場合に比べて２倍の発電能力を発揮する。単純にシンプルなラッパ型のリングを付けるだけで、風の能力を引き出すのである。

　「風は従来、厄介者でした。建物にストレスを与えたり、乗り物の軌道を変えてしまったりといったことが起こるためです。風の影響をいかに抑えるかという研究が続けられてきていたのですが、それだけの力があるのならば、風を人のために役立てることができるはずです。それがレンズ風車の研究につながっています。風を分散、解消させるのではなく、集束させ仕事をさせる研究結果がレンズ風車です。発電効率が上がるだけでなく、ほかにもさまざまな有益性があるのですよ」。

　こう語るのは、風車の研究者である烏谷隆准教授。風車の能力が上がるだけではなく、風車が持つ潜在的な劣後点の修正も可能なのだというのである。１つ目は風切音の解消。風車は風を受けて回る際、プロペラの端の部分で風切音が発生する。それがレンズ風車の場合、プロペラの外周にリングがあるため、風切音の発生を抑制することができるのである。また、風車に鳥が巻き込まれるバードストライクも減らすことができると言う。プロペラの外側をリングが覆っているため、鳥から見たら１つの大きなうちわのように見えるのだそうだ。輪郭がはっきりしているため、プロペラに巻き込まれることが少なくなるのだ。鳥が巻き込まれるのは発電にとって何の障害にもならないが、不意に動物の命を奪ってしまう環境的な観点からは、これを防ぐことは大きなメリットとされている。

　現在、烏谷准教授ら研究陣は、風車の効率の追求を行なっている。発電された電力は、制御盤やインバーター回路を通すことで３割程度失われてしまう。その割合を少しでも減らすための努力が重ねられているのである。また、強風時の制御や大型化といった面での研究も進められている。より実用的かつ先進的な風力発電機が生まれようとしているのだ。

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