5月29日、佐賀県鳥栖市で、九州国際重粒子線がん治療センターの開設記念式典が行なわれた。その席で、元九州電力会長で、現在、同社相談役を務める松尾新吾氏が行なったスピーチが波紋を広げた。
「原発が再稼働すれば何てことはない」。
これは、原発停止以降、急激に悪化する九電の収益構造のため、同センターへの寄付が滞っていることなどに対する松尾氏の考えを示したものだ。原発に対する考えの一端が垣間見える。原発再稼働さえできれば、九電は即座にそれくらいのはした金は用意できる――とでも言わんばかりの表現である。
言い方の問題も当然ある。しかし、それに加えて九電の場合は特殊な問題が付きまとっている。
1つはやらせメール問題。これは九電の体質を示すものの1つとして、同社の信用を著しく低下させた。その陰は今も尾を引いている。その当事者の1人であるにも関わらず、この発言はいただけない。企業の信用をさらに貶めることになってしまう可能性がある。そこまで考えられる方だからこそ、会長職にまで登りつめることができたのだろうと思うのだが、一瞬の気のゆるみがあったのだろうか。思わず本音が出てしまったようだ。
原発再稼働のハードルとしては、企業信用の他に安全性の問題もある。MOX燃料を使ったプルサーマルの是非や、1号機の脆性遷移温度が90℃を超えている点も議論が必要だろう。また、大枠の話になるが、核燃料サイクルが完成を見ない現在、高レベル放射性廃棄物の問題もどう認識するべきかを考えなくてはなるまい。
こんな状況であるのだから、軽々に口にすべき内容ではなかったのだ。相談役には原発再稼働するメドか目算でもあるのだろうが、「それを言っちゃあおしまいよ」なのである。
原発に関しては先行きがまったく見えない。国民的な議論と政府、電力会社の思惑とも一致点が見出せないでいる。やらせメール問題の当事者の一方である佐賀県や、重粒子線センターに補助金を出している福岡県など、関係各所は即座に不快感をあらわにした。
現在、九電の役員たちが火消しに奔走しているとも言われている。松尾相談役自身も7日、発言に配慮を欠いていたことを認め、県議会に謝罪、撤回する文書を送ったと伝えられているが、もしも、松尾相談役の意識のなかでやらせメール問題や脆性遷移温度の問題、核燃料サイクルの問題、安全性担保の問題などがすべて解決されたことになってしまっているのならば、一言苦言を申し上げたい。
殿、まだ火は消えておりませぬぞ!!
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