自他ともに飯塚市の雄として認知され、建築・土木および生コンクリート製造販売で業界を牽引する(株)坡平産業。とくに生コン製造販売においては、福岡都市圏にも進出しており、アウトサイダーとして市場への影響力は大きい。長年にわたり同社は、福岡地区生コンクリート協同組合側から、組合加入の打診を受けてきた。だが、加入条件でお互いの主張が平行線であったため、これまで加入は実現しなかった。しかし、2年前から福岡・飯塚地区両協組の広域化の一環として、同社と福岡地区協組側との交渉が活発化してきた。「坡平産業は加入する」、「絶対、組合に加入しない」と真逆の情報が、業界内で飛び交っている。
<現預金41億円の力>
「(株)坡平産業の経営安定度は、相変わらず高い。まったく問題ない」とは、福岡地区生コン業界関係者らの話だ。同社の直近の決算2012年7月期は、売上高57億189万円(前期比123.6%)のうち、生コン製造販売によるものが29億5,248万円(前期比116.7%)である。同社の生コン関連売上高から、出荷量を計算すると約29万5,000㎥で2012年度の福岡地区生コンクリート協同組合内の出荷量121万1,027㎥の24.35%になる。月間出荷量で見ると、2万4,583㎥で同地区内工場平均出荷量の約10倍である。
「福岡地区の業界において、多大な影響力を持つことは、過去も現在も、そして未来も不変である」とは、複数の福岡地区の組合員工場の幹部の話。13年7月期の同社決算においても、現在の生コン市場の時流からすると、12年7月期と同じか、もしくはそれ以上の出荷量を計上する可能性が高い。
同社の最大の強みは、現預金41億円を有する財務基盤である。創業から67年、現代表坂平忠一氏の社長就任から25年余のなかで積み重ねてきた実績が41億円の現預金である。これは、手元流動性比率8.62カ月と年商に匹敵する。有利子負債は長期借入金1,207万円と金融機関との付き合い程度で、事実上無借金経営である。
「成金や虚業ではない、同社が地道に事業でつくった財産である。自ら事業をつくり上げた坂平社長は、常に堂々として精力的に活動している。今も、自ら顧客先をまわり、営業を展開する。工事の現場にもこまめに足を運び、監督と円滑にコミュニケーションをとっている。商売に対する意欲・情熱は衰えるどころか、ますます盛んである。残念ながら、福岡地区の工場が束になっても、太刀打ちできない。その裏付けが、同社事業で成した41億円という現預金である。坂平社長が話すと、誰も何も言えない」(前出の福岡地区協組組合員工場の幹部)と、その力量は事実上、福岡の生コン業界でトップである。
<新理事長の影響力は>
福岡地区協組の理事長の任期(2年)が、今年の3月末で満了となった。前任の野見山優氏((株)野見山コンクリート代表)は期中である12年1月に就任した。
「もともとは、島松時彦氏(安川生コンクリート工業(株)代表)の2期目であった。島松氏は、2期目の理事長就任に難色を示していたものの、周辺の機運で引き受けるしかなかったようだ。だが、当時より坡平産業との交渉など重責が重なり、11年12月に健康を害して入院。何日間か面会もできない緊急事態のなか、急遽野見山さんが理事長に就任した。留任も考えられたが、再選は固辞したのであろう」と同組合に近い業界関係者のコメント。
5月16日の理事会で、同組合理事長に選任され就任した萩野順司氏は、現在、麻生コンクリート工業(株)(旧社名福岡コンクリート工業、13年1月に現社名に変更)の代表である。「萩野氏は、麻生グループのトップである麻生泰氏の肝いりだ。また、慶應義塾大学ラグビー部の先輩・後輩である」(前出の福岡地区の生コン業界関係者)と言われるように、萩野氏は麻生グループの中核にいた人物である。
今回、萩野氏が理事長になった経緯は、「セメント系列での順番であろう。島松さんが三菱系、野見山さんが太平洋系。そして萩野さんは麻生セメント。決まったルールはないが、セメント会社の系列で回っている」と同組合幹部。
麻生セメントの大得意先の1社とされる坡平産業。萩野氏の同組合理事長の就任に際して、同社が同組合に対して優位になるために麻生セメント系列から選出させたのでは、という当方の問いに対して、「それはないだろう。いくら麻生系列でも、麻生コンクリート工業は1組合員に過ぎないとの自覚はあるはずだ。選任の順番がたまたま麻生系列であったまでだ」と同組合に近い関係者が、新理事長の選出と同社の関わりを否定した。しかし、直接ではないが、同社とは利害関係にある。
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