電力は今や社会に不可欠なインフラである。東日本大震災以来、日本は新たな電力のかたちを模索し続けている。しかし、原発再稼働の是非、石油高騰など、刻々と変化し続ける環境のなか、次の一手がさだまらないのが現状だ。九州大学応用力学研究所では、独自の風力発電技術でエネルギー問題の解決を提案している。主な技術は2つ。1つは風を集める技術。もう1つは風を読む技術。本特集でその技術を紹介する。まずは総論として応用力学研究所所長の大屋裕二教授に、風力発電が描く未来を聞いた。
<普及がコストダウンにつながる>
――風力に適した土地、海もあり、技術もある。それにもかかわらず展開の足取りが重いのは、イニシャルコストの高さにあるのではないでしょうか。政治的な話で言えば、電力は自前でやっていくという大きな理想論の下で進めていくことも可能なのでしょうけれども、企業経営者の視点から見ると利回りが何%あるか、年利がいくらくらいになるのかというところで判断することになろうと思います。その点が明確に読めるようになったからこそ、近年の太陽光の普及につながっていると思います。
大屋裕二教授(以下、大屋) コストの問題は当然考慮に入れなくてはいけません。現在、低コストのレンズ風車をつくる研究をしております。当初、レンズ風車の性能を最大に発揮できるものをつくる目標を立てて研究を重ねてまいりました。型から何から、一から組み上げるのです。研究用なので生産量も少ないです。それでは費用もかさんでしまいます。ただし、その風車が評判を生み、100、1,000の単位で受注することができるようになれば、現在の値段の半分くらいにまではコストを圧縮できると思います。世界中のどの小型風車よりも景観性、静粛性、発電能力は勝っているのですから、目下、強みを活かすような工夫を重ねているところです。
目標としては、同じ出力あたりで太陽光と同価格にまでもっていくというものがあります。同じ価格で設置することができれば、風況が良いところでは設備利用率は確実に風力の方が高いのですから、風力が普及していくはずです。販路は日本だけとは考えておりません。世界中で認めていただけるようになることが大切だと考えております。
<国策として浮体式エネルギーファームを>
――最後に、浮体式洋上風力エネルギーファームについておうかがいいたします。洋上風力発電の展望について、いかがお考えでしょうか。
大屋 最初は国策としてやってほしいと思います。私たちが考えている浮体式洋上風力エネルギーファームは単なる発電所ではありません。先に述べた通り、漁業の促進や資源探査など役割を複合的に担わせることが可能です。日本各地に積極的に設置して、さまざまな産業のカンフル剤として活用していただければ素晴らしいと考えております。こういった考え方は世界中で模索されていますが、日本ではなかなか進んでいないのが現状です。大きな電力を得るための大きな設備の研究ばかりに目がいっているためですが、その視点を少しだけずらしていただけたら、世界を制することも可能です。技術インフラとして輸出することも考えて、国家として普及の後押しをしてくれればいいですね。
――風力発電は再生可能エネルギーの大きな柱になり得ることがよくわかりました。九州産の技術で日本のエネルギーを支えることができたら素晴らしいですね。本日はお忙しいなか、ありがとうございました。
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