内田 孝紀 准教授
風力発電にとっての最大の問題点は、思ったほど発電しないケースがあるのと、故障が多いことだ。その原因は風の読みの甘さにあると、九州大学応用力学研究所・内田孝紀准教授は指摘する。風は土地の高低、建物の有無などの状況で、いとも簡単に変化する。その複雑怪奇な風の動きを高い精度で予測する技術が、九州大学の持つ「RIAM-COMPACT®」である。
<世界トップレベルの速度と精度>
四角いサイコロの上に風車を設置するとする。風はサイコロの側面にぶつかって駆け上がる。屋上まで来ると、風はなだらかな弧を描いて上に登り、いずれ水平に流れていく。その弧の下の部分―ここは気圧が乱高下し、風が渦を巻いたり淀んだりする。非常に危険な場所なのだ。場合によっては反対向きに風が吹くことさえある不安定な風況となるのである。ここに風車を設置したら、ガタガタと振動したり、回転数が急激に変わったりするなど、大きなデメリットが生まれてしまう。発電効率も下がり、故障にも常に頭を悩ませなくてはならなくなるのだ。
ビルの上だけではない。ビルにはさまれた環境、林がある環境、山のふもと、山頂付近、それぞれで風況はまったく違うのである。その風の動きをシミュレーションし、風況の良い場所に発電機を設置、スムーズな発電を実現するためのソフトが、リアムコンパクトなのである。この技術は計算速度、計算精度、いずれも世界トップレベルを誇る。その精度は何と設置場所を1mずらした際の差を数値化できる水準なのである。
今年3月、ある風車のプロペラ部が落下する事故が発生した。これなどは、風の読みが甘かったために起こった事故であると内田准教授は指摘する。
「風力発電機は、建ててもよい場所、建ててはいけない場所が上下左右前後1m単位で変化します。風況が乱れやすい場所に設置したならば、故障や、今回のようなプロペラ部落下も起こり得ます。私たちのソフトを使っていただき、風況を熟慮すれば、そのような危険性は大きく軽減させることができます。専門性の高い発電方法なので、専門家のアドバイスや定期的なメンテナンスがとても大切ですね」(内田准教授)。
<風を読む力も必要>
リアムコンパクトは3次元の地形地図と建物のデータをコンピュータに打ち込み、季節ごとの風の吹き方を計算し立地調査を行なう。この方法で、最適な場所を測定することが可能であることは先に述べた通りだが、その延長線上で売電量のシミュレーションやメンテナンスも含めたコストの計算、その最適化まで行なうことが可能だ。つまり、風力発電のために必要なシミュレーションが、コンピュータ上ですべてできることになる。そのうえ、その精度は極めて高い。風力発電所設置のための融資をお願いするときには、同プログラムによるシミュレーション結果を添付しなくてはならない金融機関もあるほどである。
また、直感的にわかりやすいという特徴もある。専門性が高い風の流れを数値ではなく矢印と色で示すことができるのである。一目見ただけでどういう場所なのかがわかるというのは、事業経営者、投資家、金融機関など、専門家以外の関係者にとっても大変有意義なものだ。
さらに付帯的な機能だが、景観シミュレーションというものも可能だ。3次元で地形や建物の状況が入力されているため、それをビジュアル化することができるのである。たとえば、山の上に風車を立てる計画をつくったとして、その風車がふもとの家からどう見えるのか、といったことまで予測することができる。地元の理解を得るためにも役に立つ機能なのである。
内田准教授は、風力発電について次のように語った。
「土地があるから風車を設置しよう、という考え方では必ず風車が壊れます。しっかりと風況を考慮し、風車の性能が発揮できる場所だと確信した上で風力発電を活用するならば、必ず採算に乗せることは可能です。そして、そういった小さな力を積み重ねることで、日本は再生可能エネルギーだけで電力をまかなうことが可能だと考えております」。
風をつかみ、風の力を電気に変える。そのためには風車の能力だけではなく、風を読む能力も高くなくてはうまくいかないのである。逆に言えば、そこがうまく行きさえすれば、風力発電の事業化は"打ち出の小槌"になり得ると言える。太陽光ばかりではなく、再生可能エネルギーを最適なバランスで普及させることで、脱原発、脱化石燃料は十分実現できるのである。
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■九州大学応用力学研究所
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