海の表層海水と深層海水の間には、15℃から25℃の温度差がある。この温度差による熱エネルギーを利用して電力を生み出すのが「海洋温度差発電」だ。この海洋温度差発電の原理は、1881年にフランスの科学者ダルソンバルによって考案されたものであるが、実用化は長い間、実現しなかった。その実用化へ向けて着実に開発を進めてきたのが、佐賀大学元学長で、NPO法人海洋温度差発電推進機構理事長の上原春男氏である。上原氏が進めてきた海洋温度差発電とウエハラサイクルについてレポートする。
<国連主導で普及が進む>
この発電方法の優れた点は、いくつかの再生可能エネルギーによる発電が抱える問題を解決できるところにある。
1つ目は大出力化が可能であること。10万kW(100MW)程度の出力を持つ発電所が経済的なのである。そのユニットを10基連結すれば、原発1基分の電力が賄える。太陽光や風力などは、最大発電能力と実際の発電量とに大きく差が生まれる。それが海洋温度差発電ならば、ほとんど設計通りの出力が得られるのである。表層と深層の温度差が年間を通じて一定しているためだ。海洋温度差発電は大型化に適し、安定性に優れているのである。
次は、海に設置するため、土地の問題がない点である。日本は世界第6位の排他的経済水域の広さを持つ。その広大な海を活用できる点では、日本はこの発電方法に適していると言える。また、海に置くため、景観や騒音といった住環境に与える影響もない。ただし、船の航行などには気を配る必要はあろうが...。
このような利点がある海洋温度差発電は、基幹電力としても十分活用できる可能性を秘めている。
電力の供給はできるかもしれないが、何か落とし穴がないか―と不審がる方もいるかもしれない。たとえば漁業への影響。魚が大好きな私たち日本人の食卓から魚が消えてしまうのは、電力と引き換えにしても避けたいところではある。ところが、上原氏率いる研究グループの発表によると、むしろ豊かな海を生み出すきっかけにもなり得るのだという。ミネラル分や有機物が豊富な深層海水を引き上げて表層に流す仕組みであるため、発電ユニット近辺の海はプランクトンが増加する。するとイワシなどの小魚が増え、新たな食物連鎖が生まれると言うのだ。それも大きな魅力なのである。
では、たとえば100万kW発電するためにどれくらい費用が必要かというと、原発とほぼ変わらない6,000億円~1兆円だという。高いイニシャルコストが課題ではあるが、ランニングコストはほぼゼロだ。そのプラスマイナスを考えれば、発電の決定版となってもおかしくない。
現在、ミクロネシアなどの海洋国に設置が進められている。マーシャル諸島を皮切りに、すでに12カ国での採用が決まっているという。上原氏が提案しているのは、世界規模の送電ネットワークの構築だ。これが達成されたならば、発電能力の最適化が世界規模で実現できる。国連でも注目されている。上原氏の夢は果てしなく大きく、果てしなく痛快だ。
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