名門企業でクーデターが起きた。川崎重工業は6月13日、臨時取締役会を開き、三井造船との経営統合に積極的だった長谷川聡社長(65)ら3役員を解任した。また、三井造船との経営統合交渉の打ち切りも決定した。3人を解任する緊急動議には、取締役会の議長を務める大橋忠晴会長(68)をはじめ、残りの10人の取締役全員が同意した。後任の社長には村山滋常務(63)が就任した。
解任されたのは、長谷川氏のほか、企画本部を担当する高尾光俊副社長(63)、企画本部長の広畑昌彦常務(61)。同日付で取締役に降格し、定時株主総会を開く6月26日付で退く。取締役会は35分で終わったという。
川崎重工のクーデターの背景には何があったのか――。
<経営統合のメリットは小さい>
川崎重工と三井造船の経営統合交渉は、日本経済新聞が4月22日付の朝刊で「川重・三井造船 統合」と報じて表面化した。両社は「発表したものではない」とコメントした。
川崎重工と三井造船が経営統合を検討する背景には、造船業界が来年には新たに造船する船がほぼなくなる「2014年問題」が目前に迫っていることがある。「2014年問題」に背中を押された造船大手の再編としては、IHIとJFEホールディングスが今年1月に分社化した造船子会社の合併に踏み切り、ジャパン、マリンユナイテッドを設立した。
それに続く、川崎重工と三井造船の経営統合構想は、造船大手がサバイバル戦に突入したことを意味している。造船・重機業界で、売上高が2位と5位の両社の経営統合が実現すれば、連結売上高は単純合算で約2兆円に迫り、最大手の三菱重工業に迫る。だが、川崎重工内では経営統合に慎重な意見が強く、交渉の先行きは不透明というのが、業界関係者の見方だった。川崎重工が三井造船と統合するメリットはそれほどないからだ。
川崎重工の2013年3月期の船舶海洋事業の売上高は923億円。連結売上高1兆2,888億円の7.1%にとどまり、7事業のなかでは規模が最も小さい。航空宇宙事業やガスタービン・機械事業が主力で、消費者向けにはオートバイのモーターサイクル事業も手がけている。
これに対して、三井造船の13年3月期の船舶海洋事業の売上高は3,188億円。連結売上高5,770億円の55.2%に達しており、造船専業メーカーだ。造船への依存度が高い三井造船との統合効果について、疑問視する見方は根強かった。
日経のスクープ記事について、統合交渉を既成事実にするためリークした、あるいは、統合交渉を潰すために流したのではないか、という憶測さえ囁かれていた。そのため、川崎重工と三井造船の統合交渉は白紙に戻るだろうと予想していたが、クーデターで統合を進めている社長が追われるとは、それこそ想定外のサプライズだった。
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