2011年3月11日。原子力の安全神話が脆くも崩れ去ったあの日。日本は再度エネルギーに関する問題を突きつけられることとなった。原子力発電をすべて廃止してクリーンで安全なエネルギーを抽出すべしとの声が高まっているが、いわゆる再生可能エネルギーを一気に拡大するには、時間的、経済的、技術的な課題が横たわっている。それよりも、再生可能エネルギーの拡大と並行して、省エネルギーとエネルギー効率の向上を進めていくことが望ましいことは素人でもわかる。今回、省エネルギーとエネルギーの効率化にスポットを当てて検証してみる。
<200V化の意義>
まずは、身近なところからのエネルギー効率化を検証してみると、家庭内でよく見るコンセントから供給される電気は交流100Vで周波数は50Hzないし60Hzである。これが一般的だ。
実際、電気はさまざまなかたちを持つ。たとえば、発電所から出た電気は50万Vと特別な高圧な電圧であり、各地の変圧所で6,600Vに落としても家庭では危険すぎる電圧である。それからさらに電圧を落として一般の家庭に200Vないし100Vの電気が供給されている。ここに、省エネを推進するもとがある。では、家庭に関する電灯について歴史を紐解いてみる。
今や、日常生活にあたり前のように存在する電灯。この電灯を使う前は、ロウソクの火や石油ランプ、ガス灯が主な照明道具だったのだ。日本は明治時代に入り西洋の科学技術を貪欲に吸収。そのなかの1つである電灯は、まさにエネルギー変換の節目となったのだ。
1878(明治11)年の3月25日、東京虎の門の工部大学校(現在の東京大学工学部)内のホールに、電気を利用して花火のように火花を起こすアーク灯が設置された。点灯の式典が行なわれ、天井に設置されたアーク灯は短時間ながらもまばゆい光を放ったそうだ。これが日本で初めて電灯がともった日で、3月25日は「電気記念日」となっている。1882(明治15)年11月1日には、東京の銀座の街路に設置されたアーク灯に灯がともった。インフラ整備として設置されたようだが、まだ電源は発電機での電気供給しかできなかったとされている。
その後、電灯は広く一般にも知られるようになり、全国に多数の電力会社が生まれることとなった。
近代化のシンボルである電気は、国鉄の線路の敷設とともに地方にも普及した。電気の需要は石油ランプにとって変わり、100Vの白熱電球照明のために家庭用に100Vが供給され出した。
なぜ100Vだったかというと、まず日本は国土が狭いため、金属資源が節約できる絶縁性の悪い電力線でも供給できることを前提としていた。また、当時日本は木造家屋がほとんどで、漏電火災防止、感電事故防止のためもあった。さらに、戦後の家庭電化製品は質が悪く、洗濯機の感電事故、屋内配線が碍子(がいし)を使う露出配線でも漏電事故が多発し、家庭での電圧は100Vが限度だったのではなかっただろうか。
その後、1960年代から始まったオイルショックでは、日本国民が消費するエネルギーの見直しがなされたと言えよう。加えて、電気を供給するための絶縁部品などの品質向上で安全性が向上したのだ。
今のように電気器具に頼らない生活で、消費電力が全体的に低かった時代では、安全面も低かった。ゆえに単相100Vが主流だった。現在では、契約電流40A以上の家庭には最初から単相3線式が引かれており、この方式がほとんどと言える。この単相3線式は3本の両側の電圧は200Vであり、中性線と呼ばれる中央の線を起点に両側の電圧が100Vで、一般家庭ではこの両側の100Vをバランスよく利用しているのだ。これに加えて両端の200Vも利用が可能である。
なぜ200Vなのか――。上述した電灯においては100Vが今でも主流である。しかし、エアコンやコンロなど多量に電気を消費する家電は、200Vを利用することでさらに電気の消費を抑えることができる。消費電力が同じなら200Vの方が電流は半分となり、単純に考えても「省エネ」となる。
式にすると「100V×20A=2,000W」「200V×10A=2,000W」と単純だが、要は消費電流が半分になれば、消費電力は半分になるわけだ。この分野では、200V化は進み出した。
お隣の韓国では、標準の電圧は220Vである。身の回りの家庭では、当然のように交流220Vが使われているのだ(写真)。それは、電力需給において高い電圧の方が、効率が良いからである。高い品質を持つメイド・イン・ジャパンを前提として見ると、電線の被服(絶縁能力)など高い水準にあるはずだから、今さら100Vでないと安全性が保てないなど言えないはずだ。
なのに、なぜ普及しないのか――。それは200Vの電力料金は100V電力料金より安いため、200V機器を使用されると電力会社は儲からないからと聞かれる。また、200Vから100Vへの変換トランスを使うと罰せられる。電力会社から供給される電気エネルギーが制限されるのであれば、堂々と200V製品を利用して省エネに貢献した方が良いのではないではないだろうか。
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