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警固断層を考える~福岡都市圏における地震リスク
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2013年6月19日 07:00

 2005年3月20日、玄界灘から博多湾まで分布する警固断層(警固断層帯北西部)の横ずれにより発生したマグニチュード7.0の福岡県西方沖地震。福岡都市圏を襲ったこの地震により、死者1名、重軽傷者1,186名、全半壊家屋495棟などの被害が発生。福岡県の経済被害は約315億円に上った。
 警固断層はどういうものか。今後福岡都市圏で地震は起こるのか。都市圏住民、企業はどう備えるべきか。福岡県の地質などを研究する、九州大学大学院理学研究院の下山正一助教(以下、下山助教)に取材した。

 内陸部にある福岡市から筑紫野市に至る警固断層(警固断層帯南東部)の存在は地震以前から知られていたが、北西部の断層は、地震発生までその存在が知られていなかった。地震後、国や研究機関などが海底断層の調査を実施。その結果、内陸部の警固断層の延長部であることなどが確認されている。
 「今地震が起きても不思議ではない」――。下山助教のボーリング地質調査によれば、警固断層(警固断層帯南東部)は約8,000年周期で動いている。つまり、約8,000年間隔で地震が発生していることになる。現在、前回の活動からほぼ8,000年が経過。内陸にある南東部の警固断層は「ほぼ満期状況」にあると言う。これらの知見は、福岡県西方沖地震後、国をはじめ、九州大学や電力会社などの調査により得られたものだ。しかし、全国的に見ると、その調査密度は高くはない。今後精密な調査が進めば、さらなる断層の発見はあり得る。福岡県や北九州市などによるこれまでの調査では、警固断層以外に、福岡県域には5本の断層の存在を確認。下山助教グループでも、糸島半島沖から内陸を貫く糸島断層(仮称)の存在を想定している。

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 福岡県への津波被害の可能性はあるのだろうか。下山助教によれば、水深数千mの海底断層が動く南海トラフ断層と異なり、福岡県沖の海底はせいぜい水深50m程度で,断層はほとんど「横ずれ」。仮に対馬海峡東で「縦ずれ」の断層運動による地震が起きたとしても、福岡市で予想される津波高は最大で2.2m。潮の満干程度のものしか起こらない。だが、福岡県に津波被害はないと考えるのは「短絡的」だとバッサリ。この予想は今得られている知見に基づくものだが、より遠くからやってくる津波に関する調査は、まだほとんどなされていないからだ。例えば、水深200mを超える大和堆など、水深の深い場所で地震が起こった場合の想定はまだない。また、地震で派生する海底地すべりなどの特殊な津波も想定されていない。そういうことが起こりうるのかについては、過去に遡って調べる必要がある。

simoyama1.jpg 下山助教は、下関市の依頼を受け、遺跡発掘調査に絡み地質調査を実施。その結果、2,500年ほど前に少なくとも4~5mの津波が押し寄せ、内陸部に海水が溜まっていた時期があったことを示す痕跡が見つかった。場所は日本海側1カ所のみ。「非常に長いスパンで起こった非常に稀な現象」であるものの、福岡県沿岸部をはじめ、その他の地域で調査が行なわれていない以上、確定的なことはわかっていない。「最大規模の津波の痕跡を探すには、長いスパンで地層を調べないと知見は得られない」と警鐘を鳴らす。

 「地震は福岡市にとって差し迫ったリスクだ」――。今後福岡都市圏で地震が発生した場合、地震リスクとして埋立地などの「地盤の液状化」がまず考えられる。西方沖地震でもそうだったが、警固断層は最大約2mの「横ずれ」を起こす内陸直下の活断層。活動した場合、激しい揺れが起こり、博多湾沿岸部を中心に、特に新しい埋立地で岸壁の崩壊、建物の倒壊、水道管の破損などの被害が予想される。言うまでもないが、断層の真上や近傍の構造物も被害を受ける。断層の直上では「備えとして、インフラに余裕をもたせるとともに、復旧しやすい構造にすることも一つの考え方だろう」と指摘する。

 「私が危惧するのは、西方沖地震が起こったから、今後福岡では地震は起こらないという妙な風潮があることだ」――。地震直後は、行政、住民ともに防災意識が高まり、訓練など防災活動が活発化したが、最近は住民の意識も低下。「活断層の話をしても、意外な顔をされることが多い」とこぼす。「今年4月に淡路島地震が発生したが、これは18年前の阪神・淡路大震災に連動したもの。濃尾地震に見られるように、30~40年スパンで発生するケースもある」と述べ、意識希薄化の原因は、地震の連動に対する住民の意識のズレにあると分析する。「あれで終わったことにしたいという願望があるのだろう」(下山助教)。ところが、調査を重ねるたびに、いつ地震が起こってもおかしくない知見が得られている。「一人の研究者として、地震のリスクがあることを言い続けていくしかない」と力を込める。

【大石 恭正】


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