福岡市水道局の多々良浄水場は、粕屋町の多々良川沿いにある。施設能力は12万2,000m3/日。同市東部を主な給水区域とする。2005年4月には、生活排水などによる原水水質の悪化にともない、オゾン処理と粒状活性炭による高度浄水処理を導入(処理能力6万1,000m3/日)。「安全な水」の供給に努めている。浄水場職員数は23名。普段脚光を浴びることのない水道水づくりの現場だが、職員は日々どういう仕事に取り組んでいるのか――。
福岡市には5つの浄水場があるが、高度浄水処理の導入は多々良浄水場のみ。同浄水場でも高度浄水処理の導入前は、他の浄水場と同様に夏場などの水質悪化時のみ粉末活性炭を用い、水質基準に対応していた。しかし、暫定的な処理では対応困難と判断。1996年2月にオゾン処理+粒状活性炭の導入を決定した経緯がある。高度浄水処理導入は、他の浄水場と同等の処理水質を確保することが目的だった。
オゾン(O3)処理とは、強力な酸化力を持つオゾンに水を接触させることにより、臭気物質などを分解するもの。粒状活性炭処理とは、高い吸着力を持つ微生物の付着した活性炭をろ過することで、トリハロメタンの原因となる有機物質などを除去するものだ。ただ、オゾン処理は、その作用が強力な分、注入量が多くなると消毒副生成物の臭素酸が生成される場合があり、その注入量制御には適切な調整が必要になる。同浄水場では、試行錯誤の末、溶存オゾン濃度を0.02mg/Lに設定。この数値を満足させる制御を行なっている。
多々良浄水場の組織は、2つの浄水係(第1係、第2係)と水質係からなる。高度浄水処理など場内施設の維持管理は第1係(13名)が担当、第2係(4名)は取水場やダムなどの場外施設を受け持つ。水質係(4名)は、原水や処理水などの水質検査などを行なっている。
場内設備のメンテナンスに長年携わってきたベテラン職員の秋山和憲浄水第1係長は、「維持管理の仕事は、事故などが起こらないよう事前に予防整備をすること。逆説的な言い方だが、忙しいということはちゃんと仕事をしていないということだ」と話す。
たとえば、ポンプ設備を点検する場合、その作動音の微妙な変化を聞き取り、どの部品を交換すればいいか判断すると言う。一口に維持管理の仕事といっても、一朝一夕では身につかない職人芸の趣がある。
ベテランと若手が混在する職場では、若手にノウハウをどう継承するかが大きな課題。昼勤、夜勤の2交代制だが、基本的にベテラン、若手のペアで勤務に当たっており、定期的にペアの組み替えも行ない、幅広いノウハウの継承を図っている。ただ、3年程度で人事異動があるため、若手がノウハウを自分のものにするには「時間が少ない」部分がある。その一方、「水道を深く知るうえで、他部局でいろいろな知識を身につけることは必要」(谷口勝彦水質係長)という意見もある。ノウハウ継承はそう簡単なことではないようだ。
それに対し、若手職員は「海外貢献できる技術を身につけたい」(前川郁浄水係第1係員)。「先輩に付いて必要な知識経験を身につけることが第一。将来的には地場産業の育成にも貢献していきたい」(愛場裕記同第2係員)と抱負を話す。
柿沢泰宏浄水場長は「失敗しないと得られない経験を積み重ねていくことが重要。どの部局でも現場に長くいると、局全体、市全体の考え方、方針などの情報を見失いがちになる。常に自分の立ち位置を把握し、自分の仕事を発展させていく気持ちを持ち続けていってほしい」とエールを送る。
「水道は地道な仕事」――。ある水道局幹部職員はそう表現した。事故や不祥事でもない限り、浄水場の仕事が一般に取り上げられる機会は少ないからだ。地道な仕事に日々励んでいる職員の存在があってこそ、当たり前の水道水がつくり続けられている。その事実は、もっと知られてもいいのではないか。
※記事へのご意見はこちら