2012年9月の総務省統計によると、人口に占める65歳以上の高齢者の割合が、24.1%に達したという。そのスピードはもちろん世界一だ。日本は超高齢社会である。矢部武氏は講談社の『g2』(vol.13)で「超高齢社会とは高齢化率が21%を超える社会を指すが、7~14%未満は高齢化社会、14~21%未満は高齢社会と呼んでいる。欧米諸国の多くは10%台後半で、OECD(経済協力開発機構)諸国の平均が15%であることを考えると、日本がいかに突出しているかがわかる」(「孤立死 その原因と対策」)と述べている。正真正銘、日本は超高齢大国なのである。
アンケート(無記名)を実施した。わたしが主宰する「幸福亭」が8月で5周年を迎える。「幸福亭」は高齢者が気軽に立ち寄れる「居場所」としてオープン。月2回(週1の時代もあった)の開亭だから、居場所として十分に機能しているとは言い難いが、今年6月現在で170回、延2,300人を超す高齢者が訪れた。5年目の節目に団地高齢者の意識を再確認してみようと思ったからだ。 来亭者が情報を共有することで、住民同士の理解が深まると考えたからでもある。
周辺の住宅事情は、県営、市営、雇用促進、UR賃貸、UR分譲、一般のマンションと一般戸建て住宅である。大半が集合住宅の住民と考えていい。アンケートの配布を「幸福亭」の利用者120人に限定した。情報の共有を考えると、見知らぬ人を加えるわけにはいかないからだ。回収は32人。回収率26%である。ただしよく利用してくださる50人を対象とすれば64%と高率といえよう。数は少ないが、一応の方向性は示せると思う。アンケート回収後、20名の来亭者と討論会を持つことができた。主な設問について論じてみたい。
・性別:男性8名、女性14名、無表記10名。
・年齢:「60歳未満」3名、「60歳代」6名、「70歳代」13名、「80歳代」6名、無表記4名。
・家族構成:「独居」11名、「夫婦」11名、「家族と二人」3名、「3人以上」4名、無表記3名。
設問(1)これから先、子どもに迷惑をかけたくないと思いますか?
「思う」20名、「思わない」4名、「どちらともいえない」4名、無表記4名。
「子どもに迷惑をかけたくない」という代表的な回答に、「それぞれの生活があり、子どもたちに迷惑をかけたくない」、「この不況のなか、子どもたちの家族にも余裕がない。経済的にも精神的にも負担をかけたくない」、「親の面倒を看てもらうと、夫婦仲がうまくいかなくなると思うので」などがある。一方的に子どもたちの立場を気にする回答が目立つ。
具体的に切実な状態が訪れるのは、親が倒れた後の問題だろう。とりあえずは家族の世話になる。「家族」の範囲には夫や妻が含まれるが、実際には子どもたちが主力にならざるを得ない場合が少なくない。当然、子どもたちの家族にも影響を与えることになる。病院から帰宅後は、家で看るか、施設に入れるか、どちらにせよ確実に問題を残すことになる。
「思わない」に丸をつけた人のなかに、「(自分は)親の介護をしながら子どもたちを育ててきた。自分が年を取ってきたときには、子どもたちが世話をするのが当然。順番だと思う。子どもたちの生活状況を考えすぎ」という回答も見られた。
討論会に参加した高齢者のなかには、親を看た経験がない人も少なからずいる。「看る」という範囲も、ピン・キリだろう。親を看るため会社を辞めたり、婚期を失ったり、自分の生活を犠牲にしてきた家族(子どもたち)も少なくない。経済的に余裕がある人は、有料の高齢者施設に夫婦で入居するという選択肢もある。一方で、介護放棄のように有料施設に親を預けてしまう子どもたちもいる。いくら子どもたちに迷惑をかけたくないとはいえ、本音は家族に見守られたい、家族の目線を感じながら生きたい、というのが参加者の本音だと思う。
「この問題について、家族(子どもたち)と話し合った人はいますか」という質問に手を挙げた人は皆無だった。アンケート回答者のなかには「本音」と「建て前」を使い分けるしかない高齢者も多い。「人生の終章を、今考えたくない」というのは理解できる。ここでも経済的なゆとりの差が、人生の最後をセレクトする選択肢の数にも大きく影響している。
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。
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