水俣病の加害企業チッソと国、熊本県を相手取って、水俣病になった未救済患者48人が20日、国家賠償などを求めて、熊本地裁に提訴した。48人は、手足のしびれなどの感覚障害がありながら、地域・年代の「線引き」によって水俣病被害者特措法(以下、特措法)の救済から非該当とされた。特措法の対象地域外が29人、生年月日による年代対象外が3人。特措法の申請受付終了後初めての訴訟。請求金額は1人あたり450万円、総額2億1,600万円。原告全員が水俣病不知火患者会の会員で、2005年10月に提訴されたノーモアミナマタ国賠訴訟(第1次、2011年原告側勝利和解で終結)に続く第2次訴訟として位置づけられ、すべての水俣病被害者の救済をめざす。
提訴と報告集会には、原告30人と、第1次訴訟の原告や支援者合わせて約100人が集まった。
原告団長の飯尾正二さん(55)=鹿児島県長島町=は提訴後、「不知火海沿岸の被害者全員の救済のために提訴を決意した。水俣病の症状があっても救済されない人がたくさんおられる。提訴を発表してから第2陣に加わりたいとの連絡を何人もいただいた。裁判で解決したい」と述べ、支援を呼びかけた。
年代対象外とされた原告の松岡奈緒美さん(42)=熊本県水俣市=は、子どものころから頭痛や耳鳴り、運動機能の障害に悩んできたが、特措法ができるまで自分の症状が水俣病だとは思ったこともなかった。「今、40代ですが、高齢になって、症状が進行した時の体や生活への不安を想像するとこわいし、今あきらめたら救済の窓口はなくなってしまう。将来にわたって補償ができるように願っている。まだ水俣病だと声を上げられない人のためにも裁判を決めた」と話した。
地域対象外とされた原告の田中尊徳さん(50)=熊本県天草市=は、「地域外ということで非該当とされた。裁判(で解決)するしかない」と、決意をにじませた。
水俣病不知火患者会の大石利生会長は「患者会は物心両面の支援をし、ともにたたかっていく」と表明した。
特措法には、「対象地域」(熊本、鹿児島両県の場合、不知火海沿岸の9市町の全部または一部)や、1969年11月末までに生まれたとする年代による「線引き」により、水俣病でありながら救済が受けられない患者が多数存在する。
園田昭人弁護団長は「国は特措法上の補償を拒否した。地域外というが、もともと(公害健康被害補償法上の)認定患者がいない地域のことであり、その認定は行政が判断し、その基準が間違っていて、行政が勝手に水俣病患者ではないと決めている」と、国を批判。認定基準をめぐっては、最高裁が今年4月、水俣病認定義務付け訴訟で、国の「1977年判断条件」が求める複数の症状の組み合わせがない場合にも、水俣病と認定する余地があると判断している。
園田弁護団長は、「行政がまずすべきことは健康被害調査だ。それをせずに被害者ではないと切り捨てるべきではない」として、裁判では対象地域外・年代外で水俣病の症状が発生している被害の事実を集積して立証していく考えを示した。
原告・弁護団によると、今後、9月ころに第2陣、年内に第3陣を提訴する予定。
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