<建設コストの問題点>
そもそも原発輸出は、成長どころか大きな損失の恐れが高い。原発建設費用やその建設期間は、増大に次ぐ増大、遅延に次ぐ遅延で、大きな経済的なリスクがあり、成長に貢献するかどうか疑わしい。飯田氏は、「役人のアタマの中には、高度経済成長期の加工貿易・輸出立国モデルがあり、過去の成功産業である自動車や半導体、家電と同じように、今度は原発を次の輸出品の目玉にしようとしている。しかしそれは、まったく古くさい考えで、ばかげている。作文を書いた役人は、原発を輸出すれば儲かると信じ込んでいるのだろうが、投資リスクは大きいうえに、仮に事故を起こした場合には、膨大な負担が国民に降りかかってくる」と、原発輸出には、損失リスクが付きまとう危険性を指摘した。
現在、フィンランドのオルキルオト原発が建設されている。2005年の建設開始後、10年末には完成する予定だったが、工事は遅延に次ぐ遅延で、建設コストは当初予定の約5倍に跳ね上がっている。工事期間もすでに2年以上遅延したうえに、あと4年は要すると公表されている。飯田氏は、「おそらく4年後にも『さらに4年後』と砂漠の蜃気楼のように、いつできるか見通しが立たないのではないか。フィンランドという欧州先進国でフランスのアレバ社が行なっている原発建設でさえ、こんなとんでもない状況。インドなど途上国で、海外工事経験のない日本が原発を建設するというのは、より難しい状況になる。経済的には利益どころか大きな損失が出るだろう」と、成長戦略どころか成長阻害戦略であることを指摘した。
<再稼働、損害賠償の問題点>
原発再稼働に向けて原子力規制委員会により新基準が発表されたが、3.11の事故以降、原発の根本的な安全性が高まったわけではない。
「福島第一原発を襲った規模の地震と津波がくることだけを仮定した『新しい想定外』を生んでいる。テロや人為的なミスなどのリスクもあるはずだが、そこを徹底的に詰めておらず、そもそも事故原因も十分に検証されていない。電力会社も、目先の再稼働に血眼になっているが、事故が再び起こった際の損害賠償や使用済み核燃料の保管、処理の問題などの課題についても、まったく手つかずのままになっている」と飯田氏は、安全性以外の問題点についても徹底的に再検討すべきだと語る。
仮に同じような事故が起こってしまった場合、損害賠償をどうするのか。誰が、どのようにして、被害者にお金を払うのか。東日本大震災での福島第一原発の事故では、優良企業であった東京電力ですら事故により、倒産に近い状態に陥り、自力での損害賠償を支払うことはできなかった。同じ規模の事故が起こる可能性はゼロではない。"次"が起こった場合、どうするのか。
「仮に事故が起こった場合、税金抜きでの賠償はできない。これまでのように『次の事故は起きない』ことを前提にして再稼働に突っ走ることは国民にとっても許されない。損害賠償の枠組みを見直さないといけない。そこを手つかずにしたまま、再稼働するのは、あまりにも国民に対して無責任ではないか」と、まず、現実的に、同じような事故が起こった場合を想定した枠組みをつくることを提言した。
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