＜東大出身の陸幕長＞
小野寺五典防衛大臣が陸上自衛隊トップの君塚栄治陸上幕僚長（以下、陸幕長）を退任させ、後任に東京大学（以下、東大）出身の渡部悦和東部方面総監を起用する方向で最終調整に入ったことが明らかになった（産経新聞６月23日付）。
渡部氏は昭和53年東大卒。第２師団長（北海道旭川市）、陸上幕僚副長を経て、現職。防衛大１期の志摩篤氏が平成２年に陸幕長に就任して以降、防衛大出身の陸幕長が続いており、今回の渡部氏の起用は異例と言えるだろう。東大出身の陸幕長就任は、栗栖弘臣氏以来、約37年ぶりとなる。
＜栗栖事件とは何だったのか＞
昭和53年７月、栗栖統合幕僚会議議長は、「週刊ポスト」上で「現行の自衛隊法には穴があり、奇襲侵略を受けた場合、首相の防衛出動命令が出るまで動けない。第一線部隊指揮官が超法規的行動に出ることはあり得る」として、有事法制の早期整備を促す"超法規発言"を行なった。これが政治問題化し、記者会見でも信念を譲らず、同様の発言を繰り返したため、文民統制の観点から不適切として、当時の金丸信防衛庁長官に事実上解任された（栗栖事件）。
しかし、その後、福田赳夫首相が閣議で有事立法・有事法制の研究促進と民間防衛体制の検討を防衛庁に指示。国防論議のタブーが破られ、以後多くの国防論議が巻き起こるきっかけとなる。
栗栖事件から25年後の平成15年６月、有事法制の第１段階として、武力攻撃事態対処関連三法（安全保障会議設置法一部改正法・武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律（武力攻撃事態対処法）・ 自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律一部改正法）が成立し、有事法制の基本法である「武力攻撃事態対処法」が施行された。
＜防衛大ＶＳ一般大＞
自衛隊の幹部（３尉以上）になるには、防衛大を卒業するか、一般大学（以下、一般大）を卒業し、幹部候補生学校の試験（公務員試験）に合格するか、部内（部隊勤務中）から幹部候補生学校に合格して幹部になる３つのコースがある。
通常、１佐（大佐）以上の幹部は防衛大、一般大出身者で、そのなかでも防衛大出身者が主要なポストに就いているケースがほとんどだ。防衛大出身者は、学生時代から「同期・先輩・後輩」たちと同じ釜の飯を食べたという仲間意識が強い。そのため一般大出身者がその輪に入りにくい微妙な人間関係が存在しているのも事実である。
「防衛大出身者にあらずんば、幹部にあらず」と考えている防衛大出身の幹部もいるが、人間の身体も新陳代謝がないと体調のバランスを崩すように、本来は防衛大と一般大出身者がお互いに切磋琢磨してこそ、組織は活性化するのである。37年ぶりの東大出身の陸幕長の誕生は、防衛省・自衛隊のイメージを大きく変えるチャンスになると私は思う。
＜プロフィール＞
濱口 和久 （はまぐち かずひさ）
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年３月に竹島に本籍を移す。今年３月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居（おもしろい）』（東京コラボ）、『祖国を誇りに思う心』（ハーベスト出版）などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。５月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか？」（たちばな出版、現在第４版）が発売された。 公式HPはコチラ。
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