今年２月、初代区長であったAKB48の篠田麻里子さんが退任してから、現在も継続している福岡市のＰＲ事業「カワイイ区」。現在は、高島宗一郎福岡市長が区長代理を務めており、６月１日現在の「区民人口」は４万1,492人。高島市長はピーク時から「数百人程度しか減っておらず、プロモーションとしての立ち上げは成功した」と、『日経ビジネス』６月24日号で語り、事業継続へ強気の姿勢を見せている。しかし、区民人口の推移には、ある『トリック』が隠されていた――。

＜転入できても転出は不可？＞
　2012年８月に始まった福岡市の「カワイイ区」は、「福岡の魅力や特性を、カワイイというコンセプトで発信し、交流人口の拡大や、産業振興などにつなげていくことを目的」（カワイイ区ＨＰ）としているＰＲ事業。「福岡市８番目の行政区として設置した仮想の区」（同）とされており、カワイイ区ＨＰにおいて無料で区民登録できる。その際に必要なのはメールアドレスだけ。登録後、区民には、「福岡市カワイイ区行政だより」というメールマガジンが配信される。言い換えると、「カワイイ区民」は、メルマガ会員ということになる。

　問題の『トリック』とは、"区民登録の解除が配信されたメルマガからしかできない"という点にある。カワイイ区ＨＰでは登録および登録したメールアドレスの変更はできるが、登録解除はメルマガの最後のほうにある「▼転出（登録解除）申請はこちら」というリンク先からしかできない。そして、このメルマガは、３月15日第11号以降配信が行なわれていないのである。

　区民には篠田さんのファンが多いと思われていたことから、初代区長退任後は「区民人口」の大幅な減少も懸念されていたが実際に減ったのは数百人程度。しかし一方で、登録解除のために必要なメルマガが配信されていなかった。また、３月15日第11号の発信以降、新たに登録した「カワイイ区民」にいたっては、メルマガが発信されていないため、登録を解除することができない。つまり、「転入届は受け付けても転出届は受け付けない」という、仮想の行政区とはいえども異常な状態にある。

　ネタがないために情報発信がまったくされていないというわけではなさそうだ。「カワイイ区」のＨＰやフェイスブック、ツイッターでは、福岡市のイベント情報などが紹介されている。これまで発行されたメルマガも同様に、イベント情報などを紹介する内容であった。メルマガ会員である「カワイイ区民」向けのサービスがまったく行なわれていないということにも問題がある。

　カワイイ区の担当課である総務企画局企画調整部に確認したところ、メルマガ配信がされていないことに関して、とくに理由もなく、システム上の不具合もないという。同課によると、「カワイイ区」の情報発信は、市がネタを探して委託業者に依頼。委託業者が作成したものを市で最終確認するかたちで行なわれているとのこと。なお、同事業における情報発信をサポートしている広報戦略室は、「カワイイ区で大きな動きがあればメルマガを出したい」とコメントしている。

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