家電量販店最大手のヤマダ電機は6月27日に開催した定時株主総会と取締役会で、創業者の山田昇・前会長(70)が社長に復帰した。一宮忠男・前社長(57)が副社長に退いたのをはじめ全取締役が降格になった。薄型テレビの販売不振が続き業績が急激に悪化。取締役全員の降格で責任を明確にした。山田氏が再登板する意図は何か?ズバリ家電中心のビジネスモデルからの転換である。こんな荒業はサラリーマン社長ではできないとして、社長に復帰して陣頭指揮をとる。
<追い風にならなかったスマホ>
ヤマダの2013年3月期の連結売上高は前年同期比7.3%減の1兆7,014億円、本業の儲けを示す営業利益は同61.9%減の339億円と減収減益。売上高はピークだった11年3月期の2兆1,532億円と比べて4,518億円減った。営業利益は11年同期の1,227億円に比べて888億円もの大幅減益だ。
家電エコポイント制度と地上デジタル放送移行にともなう需要の先食いの反動減により、売り場の主役だった薄型テレビやレコーダーなどの映像機器関連の販売不振が続き大幅な減益になった。グループ全店の売上高(ベスト電器を除く)は12年期比14.7%減。今期に入っても、4月が前年同月比6.5%減、5月は同3.6%減と前年割れが続く。
薄型に代わる牽引役を期待された3D(3次元)テレビは消費者の興味を引くことができず、不発。パソコンも振るわない。急速に普及しているスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)も追い風にはならなかった。複雑な機能や料金体系を説明しなければならないが、家電量販店はカウンターでの長時間の接客が難しい。スマホを購入したい人は、カウンターでじっくり腰を落ち着けて説明を受けることができる携帯電話専門店に足を向けた。
比較的健闘したのは、高級機種が伸びている洗濯機や炊飯器などの白物家電ぐらい。テレビに代わる有力な商材が見つからず、売り上げの落ち込みに歯止めがかからない。
<スマートハウス事業に注力>
ヤマダは家電だけで生きていくことが難しくなってきた。そこで山田社長はビジネスモデルの転換をはかる。1つは住宅事業への注力だ。
ヤマダは10年3月期に売上高2兆161億円と、初の2兆円を突破。山田会長(当時)は「国内の年商3兆円」を次の経営目標に掲げた。3兆円を達成するために、ヤマダが採ったのが異業種のM&A(合併・買収)。その代表例が2011年10月にTOB(株式公開買い付け)で買収した中堅住宅メーカーのエス・バイ・エル(現ヤマダ・エスバイエルホーム)である。
ヤマダはエス・バイ・エルをスマートハウス事業の柱に据えた。スマートハウスとは、太陽光発電システムや蓄電池など、家電や住宅設備を組み合わせ、ITを使って家庭内のエネギー消費量を最適に制御する住宅のこと。ヤマダは14年3月期にグループ全体で3,000戸のスマートハウスを分譲することを目標にした。
だが、エス・バイ・エルは業績不振が続く。13年2月期の売上高は398億円、6億6,400万円の営業赤字を出し、最終損益は7億9,200万円の赤字に転落した。期初には売上高530億円、営業利益12億円を計画していたが、計画を達成できなかった。
この事態に山田氏が乗り出した。今年1月に社名をヤマダ・エスバイエルホームに変更。3月に上新電機出身で、マツヤデンキ社長を経てヤマダ副社長を務めていた松田佳紀氏(52)を社長に据えた。5月28日の株主総会で、経営陣を大幅に刷新した。
山田社長は、エスバイエルホームの基盤を生かして、13年3月期に1,200億円だったスマートハウス事業の売上高を3年後に5,000億円に増やす目標を掲げた。エスバイエルホームに課せられたハードルは高い。5年後の18年2月期の売上高は現在の5倍強の2,000億円だ。
その達成に向けて、ヤマダ店内に設ける「住まい専用ブース」を8月までに約200店舗に拡大。ヤマダの店では、住宅もキッチンも風呂も売る。住宅に注力するのは、家電のように価格の叩き合いを避けて収益を確保する狙いがある。家電量販店にとって、家電商品の価格下落が最大の悩みの種であるからだ。
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