「省エネ断熱改修普及のための日独連絡協議会」設立発起人であり、(株)日本エネルギー機関(JENA)代表取締役の中谷哲郎氏に聞いた。中谷氏は「福島原発事故(3.11)は私がこの事業を推進する大きな動機の1つです。原発はないに越したことはありません。しかし、ただ原発反対と叫んでも何も変わらない。それを実現可能にするために、まず省エネを実現する必要があります。そして、創エネへ進むことが現実的なのです」と言う。
<エネルギー問題と住宅問題を一挙に解決>
――まちづくりに必要なものは何だと考えますか。
中谷哲郎代表取締役(以下、中谷) 前職ではリフォーム産業新聞の取締役編集長をしておりました。私は、その当時から、今もそうですが、リフォームに関わる仕事を一生していくつもりでした。住宅の改修ということが住まい手に対し、さまざまなメリットを与えることを実感していたからです。
人間が生活していくうえで、家は基本です。その家に不満を持ちながら生活をされていた人が、自分の使いやすいようにリフォームしたことで大きく人生が変わり、家族が笑顔になった例を多く見てきました。リフォームとは、感動のある素敵な仕事だと実感していたのです。
このスタンスは、現在でもまったく変わっていません。
エネルギーという分野に強く関心を持つようになったのは、福島原発事故(3.11)以降のことです。
次世代に向けて、安全で持続可能なエネルギー社会を構築していくためには、現在の日本の住宅というのは非常に問題が多いと感じました。そのとき、エネルギー問題と住宅問題を1つにし、一挙にお互いの問題を解決できる方法として「省エネ断熱改修」に出合いました。
<市場規模6兆円、40万人の雇用>
――「省エネ断熱改修」推進のパートナーとしてドイツを選ばれたのは、どうしてですか。
中谷 現在、「省エネ断熱改修」の市場は、日本にはほとんどありません。一方、ドイツにおける「省エネ断熱改修」の市場規模は6兆円を超え、40万人の雇用を生んでいました。
その現状を目の当たりにして、この良い事例を参考にして、先駆者ドイツが費やした時間を短縮して日本で早急にマーケットをつくることが可能だと思ったわけです。これは、直接的な理由ですが、思えばドイツとの関係は、もう少し遡ることができます。
我々の仲間であり、JENAのスペシャリストにもなっていただいている村上敦氏にお会いしたことがそもそもの始まりと言えます。村上氏は、ドイツ・フライブルク在住の環境ジャーナリストで街づくり、交通計画のスペシャリストです。
その後、早田氏と村上氏は、"持続可能なまちづくり"を研究、開発する組織「一般社団法人クラブ ヴォーバン(club Vauban)」(※)を立ち上げました。私は、クラブ ヴォーバン設立にも参画し、彼らとも、ドイツとも、この頃から親しくなりました。2008年頃のことです。ヴォーバン(Vauban)住宅地は、2,000世帯5,500人が暮らす街で、1997年から10年間かけて街づくりが行なわれ、私も視察に行きました。
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※ 「クラブ ヴォーバン」とは、環境先進都市ドイツ・フライブルク市において、最も野心的なサステイナブルコミュニティとして世界中から評価されている『ヴォーバン住宅地』の先行事例に学び、日本国内において『ヴォーバン住宅地』にひけを取らない"持続可能な街づくり"を研究・開発しようとする仲間が集うプロジェクト。
<プロフィール>
中谷 哲郎(なかたに・てつろう)
国学院大学卒業後、亀岡太郎取材班グループに入社。ベンチャー雑誌「月刊ビジネスチャンス」、「週刊ビル経営」、「週刊全国賃貸住宅新聞社」などで取材活動。リフォーム新聞社に異動後、2006年にリフォーム産業新聞、工務店新聞の取締役編集長に就任。12年に退社、(株)日本エネルギー機関(JENA)を設立、代表取締役に就任。
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